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スポートロジー:医学と運動・スポーツの領域横断的な融合

キーワード: 三多(多動・多休・多接) 運動

 「スポートロジー(Sportology)」という、新しい学問が注目されている。スポーツや運動に携る研究者や指導者が、それぞれの知識や経験を統合(インテグレーション)し、運動や身体活動に関する学術成果をより効果的に社会に活用する仕組みづくりが考えられている。

 スポートロジーは、運動・身体活動に関する研究と、医療・臨床医学などの多領域の研究を融合し、疾病の発症予防や治療、「健康」の維持・向上に役立てられる新しい研究・学問として大きく期待されている。
スポーツ・運動と健康の関わりを科学的にアプローチする研究
 現在までにスポーツに関する研究は、体育学、スポーツ科学、健康科学など競技スポーツから健康増進にいたるまで、さまざまな基盤がある。一方で、医学からみた運動や身体活動は、内分泌・代謝性疾患や循環器疾患、整形外科領域などで研究が活発に行われ、臨床でも広く応用されている。

 運動や身体活動を積極的に行うことが、肥満や生活習慣病の予防・改善において重要であることは広く知られている。例えば、メタボリックシンドロームや肥満、2型糖尿病などの生活習慣病の治療・管理では、運動療法が食事療法と並び有効とされる。しかし、運動療法の有効性に関するエビデンスは十分とはいえず、特に日本人に対するエビデンスを創出する前向き介入研究点が必要とされている。

 また近年は、スポーツや運動に関する研究成果を、療養指導や保健指導にとどまらず、より広い範囲で活用することが期待されている。

 これを受けて新たに創設されたのが「スポートロジー(Sportology)」。スポートロジーでは、スポーツ・運動、医学、健康科学、医療、社会学、心理学など、関連するさまざまなな研究領域の「深化と統合」がはかられている。

 スポートロジーは、スポーツや運動と健康の関わりを科学的にアプローチするために、新規に定義された学問体系。順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターでは、メタボリックシンドローム予防のための大規模介入調査や、オーダーメイド型スポーツ療法処方、病態解明の基礎的研究を研究内容とするメタボリックシンドローム予防プロジェクト(代表者:河盛隆造・順天堂大学大学院(文科省事業)スポートロジーセンター センター長)などが進行している。

 国際スポートロジー学会の第1回学術集会は、今年3月5日に順天堂大学・有山登記念館講堂で開催された。世界のトップレベルで活躍する6名の研究者が特別講演を行った。

特別講演1:The role of exercise and nutrition for obesity and metabolic syndrome. 森谷敏夫(京都大学)

 体重増加や肥満の要因は、エネルギー消費量の減少。2型糖尿病や肥満者では、脂質代謝や食欲調節の中枢である自律神経の活性が低下していることが、さまざまな研究で確かめられている。速歩、ジョギングといった運動だけでなく、歩行や床そうじといった日常での"何気ない運動"を増やし身体活動を増やすことに着目し、約10年前に提唱されたのが「ニート(NEAT)」。日常生活での活動を増やすことが、糖尿病やメタボリックシンドロームの発症防止に大きな役割を果たすことが、近年の疫学研究で示されている。

特別講演2:Neurodevelopment of the pediatric athlete: concepts for pediatricians. Donald Greydanus(ミシガン州立大学)

 児童・思春期の精神医学領域で、国際的によく知られた小児科医。小児期からのスポーツ参加は、子供のさまざまな肉体・神経機能のみならず、精神や個性、協調性を育み、統合していく役割をはたす。「スポートロジーは小児科医、家庭医といったプライマリケアに携わる医師にも重要な分野である」として、小児期から青年期のスポーツ参加では、どの年齢(時期)にどのレベル(運動負荷)のスポーツ競技を取り入れていくべきかを、実例を示しながら詳細に解説した。

特別講演3:The diabesity epidemy: gluttony, sloth or both ? Pierre Lefèbvre(リエージュ大学)

 演者はこれまで国際糖尿病連合(IDF)の会長などを務め、糖尿病の発症予防に特に力を入れている。肥満の要因は不健康な食事と、運動・身体活動の不足であり、2型糖尿病の発症予防でも身体活動の増加が果たす役割は大きい。世界的に肥満や糖尿病が増加している要因として、現代人が運動不足に陥っているだけでなく、日常での身体活動が不足していることを強調。電話するとき、メールするとき、読書、休憩、会議なども立って行い、座ったまま過ごす時間をなるべく減らす新しいライフスタイル「stand up !」を示した。

特別講演4:Redox control of disuse muscle atrophy. Scott K. Powers(フロリダ大学)

 日本を含め、全世界的に高齢化社会が進展しており、筋萎縮が課題となっている。筋萎縮の原因のひつとに、筋肉を使用しないでいると起こる「廃用性筋萎縮」がある。廃用性筋萎縮のメカニズムとして注目されているのが活性酸素(ROS)。活性酸素は、生体内の蛋白質やDNAを酸化することで筋萎縮や他の老化プロセスにかかわる物質だが、ミトコンドリアが発生源であることが最近の研究で突き止められた。人工呼吸器を使用すると、横隔膜の萎縮を引き起こされ、呼吸不全を起こす患者がいるが、事前に運動を行っていると萎縮の割合が低下することから、運動は日常の健康維持だけでなく、手術後の経過を良好にするためにも有効であると示唆された。

特別講演5:Evolvement of sports cardiology in Europe. Hugo Saner(ベルン州立大学病院)

 演者は心血管疾患予防とリハビリテーションにおける国際研究「EACPR」の前理事長。スポーツ心臓病学の領域は、(1)運動参加前のメディカルスクリーニング、(2)競技者の突然死予防、(3)レジャースポーツから競技スポーツ選手、マスターアスリートまで先天性や後天性も含めた心血管疾患の評価、(4)競技場でのAEDも含めた安全対策など、多岐にわたる。とりわけ競技中の突然死対策は重要で、欧州の研究では競技前の病歴聴取、理学所見や心電図確認によりスクリーニングが有用であると報告された。また、競技場の観客に対する対策も重要で、Medical action planの整備、AEDの設置、BLS/ACLS教育も含めた安全対策が急がれている。

特別講演6:Probabilistic models of human sensorimotor control. Daniel Wolpert(ケンブリッジ大学)

 演者は運動学習と制御に関する先進的な研究を行っている世界的権威。脳は環境に作用する行動を発現するためにあるが、無限の正確さをもちえないので、不正確さを補うため事前知識を採用し、あらかじめ「予測」する働きがある。例えば、テニスのショットがどこに来るかを予測するとき、相手が上手であればライン際に打ってくることを計算に入れ、見た目の球筋よりもラインよりにラケットを振る。また、最適な行動をするには、自身の行動を予測できなければならない。脳はこのような機能が発達しているという。脳の行動制御システムが最適な行動を作り上げるメカニズムは注目されており、運動生理学からの解明もスポートロジーの重要なテーマであることが示された。

ランチョンセミナー:In pursuit of excellence: decisive moments for the Olympic gold medals. 鈴木大地(順天堂大学)、富田洋之(順天堂大学)

 オリンピックの金メダリストである両者が、競技中のビデオを写しつつ対談した。スポーツで最良のパフォーマンスを得るためには、科学的根拠に裏付けされたトレーニングによる自信と、経験に基づく瞬時の閃きが必要であることが、実際にオリンピックで最高位を得た両者によって説得力をもって話された。

参考文献:
河盛隆造:第1回国際スポートロジー学会学術集会. 体育の科学. 61. 2011
国際スポートロジー学会
順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター
平成19年度ハイテク・リサーチ・センター整備事業

(Terahata)

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