2012年12月13日
簡単な運動で記憶力を改善できる 6分間の運動でも「効果あり」
キーワード: 三多(多動・多休・多接)

ウォーキングやランニングをしているとき、プールで泳いでいるとき、運動に無心に打ち込んでいるときに、頭や気分がスッキリした経験はないだろうか? 脳科学の世界では最近、運動をすると記憶力や思考力が良くなるという研究結果が相次いでいる。カリフォルニア大学の研究者が、適度な運動を短時間行うだけで、記憶力が改善する可能性があるという新たな研究を発表した。
軽い運動で記憶力が向上 神経伝達物質が活発に
研究では、50〜85歳の男女に自然や動物の写真を見せた。写真を見せた後で、最大心拍数の70%程度の強度で、自転車こぎ運動を6分間行ってもらい、その1時間後に写真についてどの程度記憶していたかを調べた。
その結果、自転車こぎを行った群では、運動をしなかったものに比べて、記憶力の改善効果がみられた。
「適度な運動を短時間行うことは、記憶力を改善するために有効です。運動には認知機能を改善する効果があります」と、カリフォルニア大学のサブリナ シーガル氏(神経行動学)は語る。
記憶力の改善は、運動によって誘導されたノルエピネフリンによる作用ではないかと研究者は推論している。ノルエピネフリンは脳内にある神経伝達物質で、覚醒や集中、意欲、記憶などに関わる働きをする。
ノルエピネフリンには、脳の柔軟性を増し、ニューロンネットワークが作られやすくする働きがある。つまりノルエピネフリンが脳の中に出ると、ネットワークがスムーズに作られ、記憶が定着しやすくなると考えられている。
研究では、唾液中のαアミラーゼという酵素の濃度を調べた。αアミラーゼはノルエピネフリンのマーカーであり、運動によってαアミラーゼが亢進することが確かめられた。
ノルエピネフリンの作用は、とりわけ記憶障害のある患者において強く関連しているようだ。研究の参加者には記憶障害者も含まれており、運動による記憶力の改善効果が比較的大きくみられたという。
今後の高齢化社会では、高齢になっても生活の質を維持するために、認知機能を健全に保つことが必要不可欠となる。運動は簡単に取り組めて費用もかからず、自然な効果で体に良い影響をもたらす。適度な運動により、短時間の記憶力の改善をはかれることを確かめた意義は大きい。
「今後の研究で、運動が記憶力の改善に貢献するメカニズムを詳しく調べ、生物学的にどのようにして記憶力の増進を導かれるのかを解明することが必要です」と、シーガル氏は指摘している。
Brief exercise immediately enhances memory(カリフォルニア大学 2012年11月26日)
(Terahata)