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足病治療でも注目の陰圧閉鎖療法(NPWT) 杏林大学で講習会

キーワード: 糖尿病 CKD(慢性腎臓病)

 難治性創傷の新たな治療法として近年、局所陰圧閉鎖療法が施行されることが増えている。しかしその画期性のため、正しい使用には新たな知識やテクニックを要する。それらの情報を伝え適切な創傷治療を普及することを目的とした、医師を対象とするイベントが各地で開催されており、その一つとして先ごろ杏林大学形成外科において講習会が行われた。

 局所陰圧閉鎖療法(Negative pressure wound therapy.以下、NPWT)は、創傷(けが)などにより失われた組織に対して体外から陰圧をかけ、創傷の治癒を促す方法。現在、褥瘡(床ずれ)や糖尿病による足潰瘍の治療などに用いられている。NPWTが創傷治癒を促進するメカニズムとして、傷全体をスポンジ状の素材で覆うことで過剰な浸出液を取り除くとともに乾燥を防ぎ創傷治癒に適した湿潤環境を保つ、陰圧によって血流を改善し肉芽形成を促すとともに創傷を物理的に小さくする、二次感染を防ぐ、といった多面的な機序が関与するとされる。

 NPWTは国内で2010年に保険が適用され、以降、慢性・難治性創傷の治療に欠かせない治療法として普及しつつある。その一方で、適応すべき症例の選択、創傷治療における位置づけ、施行前の処置、施行手技の実際などについて、知識や技術の均てん化が新たな課題となっている。杏林大学形成外科で行われた本講習会は、下肢病変治療の抱負な経験をもつ同科による、NPWTを含めた下肢病変治療全般にわたるレクチャーを目的に開催されたもので、各地から医師が参加した。なお、講習会の主催はNPWTの主要メーカーの一つであるケーシーアイ社。

CLI後の遊離皮弁移植、形成外科医によるバイパス術などを紹介

 講習会は二日にわたって行われ、第一日目はスライドを使ってのオリエンテーションと症例検討、第二日目は実際の手術の見学。

 第一日目はまず、杏林大学形成外科教授の大浦紀彦氏が、慢性・難治性創傷の治療について概説した。主な内容は以下のとおり。

大浦紀彦氏の講演要旨

大浦紀彦氏
大浦 紀彦 氏

  • 急性創傷は、出血・凝固、炎症、増殖・再構築というステージがスムーズに進み治癒に至るが、これが滞っているものが慢性・難治性創傷。
  • 治癒が遷延する原因は多岐にわたり、褥瘡であれば物理的な圧力、糖尿病性足潰瘍であれば微小循環不全、CLI(critical limbs ischemia.重症下肢虚血)であれば虚血。それらの原因を特定し介入することで、慢性・難治性創傷を急性創傷と同じ病態にすることができる。
  • 創傷の治癒が始まる段階の局所治療では、創面環境整備(wound bed preparation.以下、WBP) が重要。WBPを阻害する四つの因子は、その頭文字をとり「TIME」という。適切なWBPの後に肉芽形成が始まるが、その過程を促進するのがNPWT。これらについては後述してもらう。
  • 肉芽形成が得られた後は、保存治療、縫合・植皮・皮弁等による再建を行い、治療が完了する。
  • 杏林大学形成外科の特徴的な治療の一つとして、CLIの再建に植皮ではなく遊離皮弁移植を行っていることが挙げられる。主に広背筋を用い足底を再建することで、歩行可能な機能的な足とすることができ、潰瘍再発時の治療も容易。
  • 血行再建にはステント等によるEVT(end vascular treatment.末梢血管治療)とバイパスがあるが、長期開存率でバイパスが有利。下肢バイパス術は、マイクロサージャリーを行う形成外科医であれば施行可能。若いドクターにはぜひ挑戦してほしい。
WBP、NPWT、保存治療の最前線

 大浦氏の総論的解説に続いて、WBP、NPWT、保存治療の各論をテーマに、同大形成外科の古屋恵美氏、佐藤大介氏、浅野悠氏がそれぞれ解説した。

 古屋氏は、創傷治療におけるWBPについてTIMEのコンセプトを取り上げた。

古屋恵美氏
古屋 恵美 氏

 TIMEは、tissue(組織)、infection/inflammation(感染/炎症)、moisture(湿潤)、edge of wound(創縁)の頭文字で、創傷治療にとって重要な因子。糖尿病による下肢病変の場合、感染や血流不全などにより慢性化することが多いため、 TIMEコンセプトがより重要になると解説。WBPにあたっては壊死組織をデブリーメント(物理的な除去)することが前提だが、不用意なデブリーメントが壊死を拡大することがあり、実施に際し事前の血流評価が必須とし、同科ではSPP(skin perfusion pressure.皮膚組織灌流圧)30mmHg以上を基準としていると述べた。最後に、同科におけるCLIの診断・治療アルゴリズム(図)を紹介した。

図 杏林大学形成外科における糖尿病性足病変の診断・治療のアルゴリズム
杏林大学形成外科における糖尿病性足病変の診断・治療のアルゴリズム

 佐藤氏はNPWTの歴史とともに実際のメリットを、症例を供覧しつつ解説。NPWTには、過剰な浸出液の排除、肉芽形成促進、感染の制御、ポケットの癒着促進といった効果があり、同科においては再建術の前に創傷の状態を整える目的でも使用して術後合併症の抑止につなげているという。一方で、患者さんにとっては足に常時チューブがつながっているためそれなりのストレスになり異常行動がみられた例もあったことから、心理面の配慮が必要なこと、創内部に圧力が加わることからわずかな血流で保たれている創の場合、NPWTの圧迫により状態が悪化するリスクもあることなどの注意点を挙げた。

佐藤大介氏
佐藤 大介 氏

 保険適用となる以前は各施設で手作りのNPWTを用いていたが、エアリークやフィルター・チューブの閉塞により陰圧を維持できなくなるなどのトラブルが少なくなかったという。現在のNPWTはキット化され扱いが非常に容易で、医療者側の労力軽減に益するだけでなく、創との癒着が少なく患者さんの苦痛の軽減にも役立っていると述べた。

 浅野氏は、創傷治療の変遷を振り返るとともに、褥瘡対策、外用剤・創傷被覆材の種類と使い方を解説した。創傷治癒には乾燥させずに湿潤環境を保つことが必要だが、その一方で、急性創傷の浸出液は創傷治癒に働くbFGF(basic fibroblast growth factors.線維芽細胞増殖因子)等が豊富だが、慢性創傷の場合にはそうとは限らないため、適切な湿潤環境に維持することが求められるという。その点、外用フィルムは全く浸出液を吸わないがNPWTは適度に吸収するため、浸出液が多い傷にも適していると述べた。

 創傷被覆剤に関しては、創から剥がした後に傷ばかりでなく被覆材の裏をよく観察することがポイントとし、例えば、吸収しきれていない浸出液が表皮を侵害し新たな創を作ることがあり、被覆材を観察することで発見につながることがあるという。

 同氏は最後に創傷治療を概説。現在の治療戦略は、外用剤、NPWT、創傷被覆材の三つを組み合わせて創傷治癒を促していくというものだが、フィブラストスプレー(R)やV.A.C. (R)が標準であり、これらによって以前に比し、創傷被覆材の使用期間が短くなりつつあるという現状を述べた。

浅野 悠氏
浅野 悠 氏

 これらの講義に続いて行われた処置見学では、足趾の創傷の処置や、創傷が2か所ある患者のブリッジングの方法、植皮術前日の創傷の状態の確認、患肢の安静度について確認、シャボンラッピング法学、WOCN(wound ostomy continence nurse.皮膚・排泄ケア認定看護師)と形成外科医師・病棟看護師の処置時の連携について、参加者が見学。引き続いて各参加者が症例を提示しての検討会が行われ、難渋した症例、治療方針に困っている症例、珍しい症例について、大浦氏や出席者が活発に討議した。

 第二日目は、足背・踵部潰瘍の患者に対し、下腹部から採皮し分層植皮術を施行する手技を見学。バイオフィルムの除去の方法や、採皮の方法、採皮片のメッシャーの方法、植皮部へのNPWTの貼付方法などが参加者に共有された。

 このイベントが杏林大学で行われるのは今回で2回目。昨年は神戸大学形成外科で8回にわたり開催された。主催のケーシーアイ社では、NPWTの正しい知識・手技の普及を狙い、全国の創傷治療に携わる医師を対象とするこのような講習会を開催している。

関連情報

杏林大学形成外科
ケーシーアイ株式会社
一般社団法人Act Against Amputation(AAA)
足病変とフットケアの情報ファイル

(mhlab)

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