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村松先生コラム アーカイブ

2011年1月16日

1. 日本人の喫煙状況

 日本たばこ産業(JT)による昨年8月の発表では、「日本人の喫煙率」は成人男女あわせて23.9%(前年比1.0ポイント減)、男性のみでは36.6%(前年比2.3ポイント減)、女性では12.1%(前年比0.2ポイント増)という結果でした。男性の喫煙率は若干減少してはいるものの、他の先進諸国ではすでに20%を切っており、依然として高い状況です。女性においては、若者を中心に近年増加傾向にあり、妊娠・出産前あるいは育児中の女性が喫煙することは、我が国にとって大きな問題となっています。

 さらに、日本では、医療従事者の喫煙率も高く、男性医師の喫煙率は15%と、欧米の医師(米国男性医師3%、英国男性医師2%)に比べて極めて高いのが現状です。また、看護師においても、一般女性の平均値(12%)をしのいで約20%と、患者指導を行う立場にある医療従事者への禁煙教育もまた、緊縛の課題と言えるでしょう。

日本は世界でも喫煙率が高い国
―男女別喫煙率の国際比較―

注)15歳以上の毎日喫煙者の比率。1999〜2006年の統計。出典:OECD Health Data 2007


日本人喫煙率の年齢および男女差
―性別年齢別喫煙率の推移―


出典:最新たばこ情報ホームページ「成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)」


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2. 副流煙と受動喫煙の弊害

副流煙は主流煙より有害です
 紫煙の怖さは主流煙と副流煙によっています。 「副流煙の方が有害」という話をお聞きになったことはないでしょうか。主流煙とはフィルターを通して喫煙者本人が吸い込む煙であり、副流煙とは火のついたタバコの先端から立ち上る煙です。タバコを吸うと、先端の火の部分には酸素が引き寄せられ、燃焼温度が上昇するため赤く光ります。この時の先端の温度は900℃にも達するため、主流煙中の有害物質は多くが分解されてしまいます。さらにフィルターも通すため、主流煙の有害物質はさらに低下します。

 一方の副流煙は、ただ手に持っている時に立ち上る燃焼温度の低い煙です。有害物質の多くが分解されずに含まれており、またフィルターも通していないため、非常に危険な煙と言えます。これこそ紫煙の怖さだといっても過言ではないでしょう。厚生労働省の研究でも、副流煙には主流煙の100倍以上もの濃度で含まれる有害物質が、いくつも確認されているのです。このことは、部屋の中で副流煙が100倍に薄まったとしても、同じ部屋にいる人は主流煙を吸ったのと同じ量の有害物質を吸い込むことを意味していて、受動喫煙を決して甘く見てはいけないことがよく分かります。

 実際、喫煙者本人だけでなく、受動喫煙によるリスクも近年広く研究が行われています。厚生労働省の研究班が昨年発表した推計によると、受動喫煙が原因となり発症する肺がんや心筋梗塞で、年間約6千800人が死亡しており、そのうち職場での受動喫煙が原因とみられるのは半数以上の約3千600人だったとしています。世界においても昨年、世界保健機関(WHO)の研究チームが他人のたばこの煙を周囲の人が吸い込む受動喫煙による死亡者数が毎年60万人に達するとの推計を学術雑誌ランセットに発表しています。そのうち16万5千人は5歳未満の子どもが占めているとみられています。

 このことから、“世界では6秒に1人が喫煙で死亡し、1分に1人が受動喫煙で死亡している”として広く警鐘が鳴らされています。

たばこ煙は副流煙の方が有害

出典:1) 最新たばこ情報「主流煙と副流煙」、2) 厚生労働省たばこ煙の成分分析について、3) 厚生省編喫煙の生理・薬理:喫煙と健康;48:1992

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3. 喫煙と生活習慣病との関わり合い

1) 喫煙と心血管病変
喫煙は有害物資を吸い込む行為
 喫煙が心血管病変のリスクファクターであることは、古くから知られている事実です。たばこを吸うと、まずニコチン自体が強力な血管収縮作用を持つため、血管内腔が狭窄し血圧が上昇、血流は低下します。また、煙に含まれる一酸化炭素は酸素の200〜250倍、ヘモグロビンと結合しやすいため、全身組織の酸素欠乏状態を促し、二次性の多血症を来たすことにより血液粘調度が増大(いわゆるドロドロ血)。血栓ができやすい状態になります。活性酸素も血管内皮を障害するため、さらに血栓や塞栓症の発症を促します。一方、活性酸素により酸化変性を来たした脂質は、プラーク形成を促進して動脈硬化も進行してしまいます。実際、喫煙による心筋梗塞死に対する相対リスクは、血圧やコレステロール値をも上回るのです。

 脳梗塞死に対しても同様です。脳梗塞まで至らなくても、微小循環が障害されることで認知症が増加することも知られています。さらに受動喫煙の被害から、喫煙者と同居しているだけで、認知症の発症率は(非喫煙者と同居している人に比べ)約30%増加するとのデータもあります。

2) 喫煙と糖尿病・脂質異常症
 喫煙者ではインスリン抵抗性が認められ、血糖値が下がりにくいという事実は、以前から知られていましたが、その機序はこれまで未解明な部分が多くありました。しかし最近になって、肥満・内臓脂肪とメタボリックシンドロームの研究が進むにつれ、喫煙と糖尿病の因果関係が徐々に解明されつつあります。

 メタボリックシンドローム研究で注目されているアディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの一種で、インスリンの作用を助けて血糖値を下げる役割を果たしています。内臓脂肪が増加して脂肪細胞が肥大化すると、アディポネクチンの分泌は減少してしまうので、いわゆる“メタボ”の状態は要注意とされています。

 実は、喫煙でも、このアディポネクチンに影響を与えます。喫煙をすると数時間でこのアディポネクチンが減少し始め、6〜12時間は低値のままになるという研究結果も示されています。また、喫煙者と非喫煙者の間では、アディポネクチンの血中濃度に有意差があることや、試験管内で脂肪細胞にニコチンを暴露すると、ニコチンの量が多いほどアディポネクチンの分泌が低下することも確認されています。さらには、喫煙が糖尿病の新規発症を増加させることを確認したデータや、ニコチンが脂肪細胞からの遊離脂肪酸の分泌を促進する事実もあり、タバコが糖・脂質代謝に悪影響を及ぼすことは、もはや疑う余地はありません。

3) 喫煙とメタボリックシンドローム
 これまで述べてきたように、喫煙は?血圧、?糖代謝、?脂質代謝の全てに悪影響を及ぼすことから、喫煙は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の合併を増加させることも明らかです。また、受動喫煙により、周囲の非喫煙者もメタボリックシンドロームの合併率を上昇させます。すなわち、“メタボ対策”としても禁煙は欠かせないのです。

喫煙はメタボリックシンドロームを増やす
※メタボリックシンドロームの定義はNCEP-ATP?による。出典:Ishizaka N, et al:Atherosclerosis 181(2):381, 2005

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4.禁煙のメリット

 タバコの燃え方は、くすぶるような不完全燃焼であり、その煙からは一酸化炭素、活性酸素のみならず、ダイオキシン類を含む60種類以上の発癌性物質が検出されます。喫煙とは、これらの有害物質をダイレクトに肺へ吸い込み、また肺の毛細血管から血液中に取り込む行為です。肺ガンを例にすると、1日1箱吸うと死亡リスクは約5倍。禁煙をすることで、これらの疾患の発病リスクを軽減できるのですから、禁煙のメリットは極めて大きいと言えます。

 よく「今さら禁煙しても遅いのでは?」という質問を受けますが、前項で述べた心血管病変のリスクは、禁煙をすると速やかに減少します。禁煙したその日から、活性酸素による血管内皮障害や、ニコチンによる血管収縮作用はなくなるので、何歳からでも禁煙する価値は大いにあるのです。

 かく言う私も元喫煙者ですが、その私から見ても喫煙はデメリットばかりでした。タバコ代だけでなく、いちいちタバコを買いに行く手間や、吸う場所を探す手間がかかる。歯だけでなく部屋の壁紙もヤニで汚れる。受動喫煙で他人にも病気のリスクを負わせてしまう等々、考えてみると良くないことばかり。禁煙すれば、これらのデメリットは全てなくなるのです。

 完全に禁煙すると、これまでタバコのメリットと感じていたイライラの解消も、実は勘違いであったことが分かります。ニコチン依存に陥ると、血中のニコチン濃度が減少してくる度に、イライラしたり集中力がなくなってくるように感じます。ここでタバコを吸い、ニコチンの血中濃度が回復すると、これらの離脱症状(禁断症状のようなもの)がなくなるため、ホッとする。この感覚が“タバコは美味しい”と勘違いさせているのです。本来ニコチン依存になっていなければ、このようなイライラや集中力低下自体も生じないのです。

 忙しく仕事をしていれば、誰もがイライラや疲労を感じるものです。そんな時、席を離れて喫煙所まで行き(あるいは喫煙所を探しまわり)、“一服”休憩することが気晴らしになっているのではないでしょうか。しかし、禁煙に成功すると、疲れてきたら少し離席して休憩するだけで、タバコなどなくてもリフレッシュができることに気づきます。むしろ体調が良くなっていることも実感するのです。

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5.上手に禁煙するには

 禁煙する際には、まず目的や目標を明確にしてください。子供には吸って欲しくないと思うなら“親である自分が手本を示さねばならない”とか、“1日1箱のタバコ代節約で年間15万円の貯金”など、禁煙のメリットを思い浮かべながら目的を立てるとよいでしょう。動機づけが曖昧だと禁煙の継続は難しくなるものです。

 禁煙が難しいのは、前述のニコチン離脱症状の影響も大きいので、離脱症状を緩和するための禁煙補助薬の使用(できれば禁煙外来受診)を上手に活用することが望ましいと言えます。苦しいダイエットが成功しづらいのと同様に、辛い禁煙も成功しません。喫煙者の大半は、本人も気づかないうちにニコチン依存に陥っています。長年の習慣として生活の中に入り込んでしまっているため、自力のみでチャレンジするのは難しいのです。

 現在、禁煙治療は、禁煙外来等のある指定医療機関で保険診療が適用されます(1年に1回3カ月間のみ)。診察料や処方箋料・薬代すべて合計しても3割負担の場合、1日200円程度で治療できます。2〜3ヵ月の治療期間に合計5回の通院で、成功率は約70%です(自力でチャレンジした場合では20%程度)。

 “タバコをやめたい!”と思ったら、専門医を訪ねるのが確実な近道と言えるかもしれません。

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