【市民公開講演会レポート】
アルコールががんや生活習慣病を引き起こす「少酒の勧め」

宮崎 滋 先生
開会の挨拶
宮崎 滋 先生

 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会は2月6日に、東京の日比谷コンベンションホールで公開講演会を開催した。
「全国生活習慣病予防月間」で掲げるスローガン「一無、二少、三多」から、2019年は「少酒の勧め」に着目。酒は「百薬の長」と言われるとおり、適度な飲酒は健康に良いと昔から信じられてきた。しかし飲み過ぎると、確実に健康に害を及ぼす。
分かっていても、ついつい飲み過ぎてしまうという方が多いのでは?アルコールの飲み過ぎのリスクと食の健康法について、専門家が解説した。
「一無、二少、三多」について、詳しくは下記をご覧ください。
一無、二少、三多で生活習慣病を予防
開催プログラム(PDF) ▶

講演1「アルコールとお口の健康」

小林隆太郎 先生
演者:日本歯科大学口腔外科 教授
小林隆太郎 先生

命のための口腔健康管理

「口腔健康管理」の目標は、生涯を通して口腔の問題に苦しむことなく人生を楽しめるようにすること。その基本は、口腔衛生と口腔機能の維持・向上だ。

歯の質や細菌(むし歯原因菌)、食物によって、歯が欠損の状態になるのがむし歯。歯を支える歯ぐき(歯肉)や骨(歯槽骨)が、歯周病菌の関連によって壊されていくのが歯周病だ。

よく噛むことは、単に食べものを体に取り入れるためだけではなく、食とも関わりが深く、全身を活性化させるのに重要な働きをしている。よく噛んで食べる習慣を身に付け、それを維持するために、むし歯や歯周病のケアをきちんと行うことが大切だ。

歯を失う原因のひとつは「酸蝕歯」

口腔ケアとアルコールの関連が深いのは、「酸蝕歯(さんしょくし)」を引き起こすおそれがあるからだ。「酸蝕歯」とは、酸性の飲食物などで歯が溶けてしまう疾患。通常は唾液が酸を洗い流して中和するため大きな問題にならないが、アルコール飲料の多くは酸性度が高く、繰り返し長い時間飲んでいると歯が溶けるおそれがある。

酸性・アルカリ性の度合いを示すpH(水素イオン濃度指数)は、低いほど酸性度が高い。虫歯の場合、口の中がpH5.5以下になるとエナメル質が溶けはじめる。pH5.5以下の酸性度が高い飲み物は酸蝕歯の原因になるおそれがある。

主なアルコールpHは、ビールが4.0〜4.4、日本酒が4.3〜4.9、ウィスキーが4.9〜5.0、赤ワインが2.6〜3.8となっている。酸蝕歯を防ぐには、歯を酸に長時間さらさないこと、歯磨きをしっかり行うことが大切だ。原因となるアルコールの過剰摂取を控え、飲み方も見直そう。

口は「健康の入り口」

また、アルコールを多く飲むと一時的に眠くなるが、寝る直前にアルコールを飲むと睡眠の後半で眠りが浅くなり、目が覚めやすくなる。そのため、寝酒を続けていると睡眠の質がするとも言われ、さらに睡眠の悪化と歯ぎしりとの関係も示唆されている。

歯を失う原因の多くは、むし歯と歯周病だ。これらを予防するために、日常的に自分で行う口のケアが重要。体の健康はもちろん大切だが、口の健康を保つことも体の健康を手に入れる第一歩になる。

歯みがきや食べ方を改善することが対策になる。また、お酒を飲んだ後は、そのまま寝ないで、歯磨きをしっかり行うことも重要だ。歯科での定期検査も欠かせない。定期検査では虫歯の検査、歯周病の検査、歯石の除去などが行われる。

歯周病は、歯にまつわる病気だけでなく、全身にさまざまな影響を及ぼす。歯周病菌により、脳や心臓の血管が動脈硬化になりやすくなり、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まる。また、歯周病により生じる炎症物質はインスリンの働きを妨げ、血糖値を高くするおそれがある。脂肪をためやすい体内環境になり、肥満にもなりやすいと考えられている。

講演2「少酒とがん予防」

小林隆太郎 先生
演者:国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究部部長
井上真奈美 先生

「がん研究」から「がん予防」へ

日本人の2人に1人が、一生のうち一度はがんになるというデータがある。新たにがんと診断された患者の数は、2016年に99.5万人に達した。がんは日本人にとって身近な病気で、その予防は多くの人の関心を集めているテーマだ。日本人を対象としたがん予防に関する研究で、多くのことが分かってきた。

国立がん研究センターは、がんの原因・予防方法を研究している専門家の共同作業により、得られた研究結果を日本人のがん予防へつなげる橋渡しをしている。

同センターがまとめた「科学的根拠に基づくがん予防」によると、男性のがんの53.3%、女性のがんの27.8%は、生活習慣や感染が原因で発症したと考えられている。つまり、生活習慣を改善することで、がんの多くは予防が可能だ。

日本人のがん予防に関する知見は増えている。国立がん研究センターが中心となり行われている「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。

過度のアルコール摂取はがんリスクを上昇させる

日本で行われの6つのコホート研究から日本人約31万人のデータを用いた研究で、飲酒により、がん全般、大腸がん、肝がん、食道がんのリスクが増加すことが明らかになった。
これまで適量の飲酒は循環器疾患を予防するという報告があり、この研究でも1日のアルコール摂取量により比較したところ、飲酒が増えるにつれていったん死亡のリスクが下がり、さらに増えるとリスクが上がるというJ型の関連がみられた。

しかし、大量飲酒が習慣化すると、がんの発症リスクが上昇する。がんリスクを上昇させるアルコールの摂取量は、男性では1日当たりエタノール換算で46g以上、女性では23g以上であることも分かった。お酒に含まれるアルコール23gの目安は、日本酒(180mL)、焼酎(25度)(100mL)、ウィスキーダブル(60mL)、ワイングラス2杯(200mL)、ビール大瓶1本(633mL)となっている。

お酒に含まれているエタノールは分解されてアセトアルデヒドになるが、これががんの発生に関わると考えられている。健康のためは、アルコール23gに当たる目安量を超えないようして、適度な飲酒を心がけることが大切だ。

喫煙でがんリスクが上昇 お酒は適量で、休肝日も必要

市民公開講演会2019

飲酒によるがん発生率への影響は、喫煙によって助長されることも分かっている。JPHC研究では、喫煙、飲酒とがんの発生率との関係も調査された。

たばこを吸う人と吸わない人とに分けてみてみたところ、たばこを吸わない人では、飲酒量が増えてもがんの発生率は高くならなかった。ところが、たばこを吸う人では、飲酒量が増えれば増えるほどがんの発生率が高くなり、ときどき飲むグループと比べて、1日平均2〜3合以上のグループでは1.9倍、1日平均3合以上のグループでは2.3倍に上昇した。

お酒の飲み方によって健康への影響は違ってくる。週1〜2日、週3〜4日、週5日から毎日の3つの飲酒パターンで比べたところ、休肝日のないグループに比べ、男性で週1〜2日休肝日をとり、かつ飲酒量が週150g未満のグループでは、全死亡リスクが低下してた。また、男性で週1〜2日休肝日を取るグループでは、飲酒量に関わらずがんや脳血管疾患死亡リスクが低下していた。

ただし、休肝日があればたくさん飲んでよいというわけではなく、飲酒量が極端に多い人では、休肝日があっても死亡リスクが高い傾向があったという。飲酒習慣のある男性の6割は休肝日をもたないという。休肝日をもうけつつ、お酒を適量で切り上げることが大切だ。

その他、大量飲酒が習慣になると、肺がん、大腸がん、乳がんのリスクが上昇することも分かっている。飲酒と食道がんとの関連についての調査では、ヘビースモーカーで赤くなる体質の人は喫煙量と飲酒量が多いとリスクが上昇することが示されている。

日本人のためのがん予防法

国立がん研究センターの研究班は、主要ながんのリスク要因と、がん全体、臓器ごとのがんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を系統的に収集し、総合評価を行っている。その評価結果にもとづき「日本人のためのがん予防法」を作成した。

次の5つの健康習慣を実践することで、がんになるリスクを低くできると考えられている。いずれも、毎日の生活で努力を続けることで実践が可能だ。
(1)禁煙する、(2)食生活を見直す、(3)適正体重を維持する、(4)身体を動かす、(5)節酒する

科学的根拠に根ざしたがん予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法」は、国立がん研究センターのホームページで紹介されているので、がんを予防するために、一読することをお勧めする。
国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防」

総合討論

関連情報へのリンク

一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
全国生活習慣病予防月間2019(日本生活習慣病予防協会)

少酒とは?

少酒とは?「百薬の長とはいへど、万の病は酒よりこそおこれ」という言葉もあるとおり、アルコールをたくさん飲める人でも、1日にその程度の飲酒量が望ましいということです。
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