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喫煙・受動喫煙と新型コロナウイルス感染症

村松 弘康
中央内科クリニック 院長
日本生活習慣病予防協会 参事

 令和2(2020)年4月より、改正健康増進法ならびに東京都受動喫煙防止条例が全面施行となり、受動喫煙防止対策が強化されました。日本では、かつて専売公社として国がタバコの販売を行ってきたという歴史的な背景から、諸外国と比較してタバコ対策が極めて遅れていました。

 やっと海外並みの受動喫煙防止対策に近づき、いよいよ本来であれば、東京オリンピックを迎えるはずでしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、残念ながら東京オリンピック/パラリンピック(東京2020)は延期となってしまいました。

 ところが実は、COVID-19対策を考える上で、喫煙・受動喫煙対策は大変重要なのです。東京2020に備えて受動喫煙防止対策が強化されたことは、偶然とは言えCOVID-19対策上、決して無駄ではありません。

喫煙者はCOVID-19重症化のリスクが高い

 まず、喫煙は気道粘膜を障害するため、COVID-19に限らず、すべての呼吸器感染症の罹患率や重症化率・死亡率を押し上げることが知られています。

 COVID-19に関して言えば、3月下旬に欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、喫煙者がCOVID-19に感染した場合、呼吸障害が起こり重症化するリスクが高いと発表しました1,2)。その理由について、体内に侵入したウイルスが細胞に感染する際に必要とする酵素が、喫煙によって活性化しやすくなるためだとの見解を示しています。

喫煙がアンジオテンシン2の遺伝子発現を増やす

 ECDCが喫煙者におけるCOVID-19重症化の関与を示唆している「ウイルスが細胞に感染する際に必要とされる酵素」とは、「アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)」と呼ばれるものです。

 このACE2は、喫煙で増加することが分かっています3)。それに加えて、喫煙はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という呼吸器疾患の最大のリスク因子であり、喫煙者はCOPDであることが少なくなく、そのCOPDもまたCOVID-19重症化のリスク因子の1つでもあることも示されています。

 なお、ACE2は血圧の変動にもかかわる酵素です。これに関連して、血圧の治療に用いられる薬のうち、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬というタイプは、ACE2の発現に影響を及ぼしCOVID-19の感染や重症化に影響するのではないかとの懸念が一部にあります。ただしこの点については、国際高血圧学会が「現時点で処方を変更すべきではないと考える」との声明を発表しています4)

喫煙者は、ICU管理や死亡リスクが約3倍

 このように、喫煙がCOVID-19を重症化させるメカニズムが明らかになっています。そしてメカニズムばかりでなく、実際に重症化や死亡のリスクが上昇することを示したデータも既に報告され始めています。

 英国の権威ある医学雑誌「New England Journal of Medicine」に掲載された論文では、COVID-19に感染した1,099名の患者データが様々な観点から解析されました。そのデータから計算すると、喫煙者は非喫煙者よりも1.66倍重症化しやすく、ICUへの入室や死亡したりするリスクが2.96倍高いことが分かります5)

 また中国・武漢の複数の病院のデータを解析した報告からは、喫煙歴がある場合の重症化のオッズ比は14倍以上で、年齢や入院時の体温など、検討された他の因子よりも一段と高いオッズ比が示されています6)

 さらに、ごく最近、これまでに報告された11件の論文のメタ解析の結果が報告されました。それによると、COVID-19の重症化はCOPDがある患者ではオッズ比4.38、現喫煙者では1.98とのことでした。COPDとは先ほどもお話ししたいように、喫煙が最大のリスク因子である肺の生活習慣病です7,8)

 いずれにしても、喫煙がCOVID-19の重症化因子であることは確実なようです。

喫煙スペースは極めてハイリスク

 タバコがCOVID-19のリスクを上昇させる理由は、ここまでに述べた医学的な理由のみにとどまりません。タバコを吸う環境もCOVID-19のリスクに関連してきます。

 まず、喫煙室のドアノブを触った指で、タバコを取り出して口にくわえます。タバコを吸うたびに指が口に近づき感染のリスクが増大します。

 また、喫煙室の中はまさに「3つの密」(密閉、密集、密接)の条件を満たす場所だということです。そのため、クラスター発生の危険があり、対策として多くの施設で喫煙室を閉鎖する動きも出てきています。実際に福井県では、喫煙所で感染したと思われる事例も報告されています9)

今こそ、しっかりと喫煙・受動喫煙対策

 現在の受動喫煙は、単なる受動喫煙ではありません。もし、無症状の感染者が喫煙した場合、肺の中に吸い込んだタバコの煙の粒子とともにウイルスが吐き出される可能性があり、非常に危険だからです。

 現在、テレワークなどのために自宅内にいる時間が増えていますが、ご家族や隣近所への配慮のためにも、ぜひこの機会に禁煙しましょう。このような厳しい時期にはじめた習慣は、きっと身につくものといえるでしょう。

 日本中、そして世界中で多くの方々がCOVID-19で苦しみ、そして命を落としている中、今こそ日本でもしっかりと喫煙・受動喫煙対策に取り組まなければなりません。

文献・引用元

1) NHKニュース「新型コロナ「喫煙者は重症化リスクが高い」2020.3.27
2) Coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic: increased transmission in the EU/EEA and the UK–seventh update. ECDC, March 25, 2020
3) Yang Xia, et al. The Lancet Oncology, March 03, 2020
4) COVID-19に関する国際高血圧学会の声明について.日本高血圧学会
5) Wei-jie Guan, et al. NEJM, February 28, 2020
6) Wei Liu, et al. Chinese Medical Journal, 2020
7) Zhao Q, et al. J Med Virol.April 15, 2020
8) Qianwen Zhao, et al. J Med Virol. April 15, 2020
9) 喫煙室でタバコ吸う人があまりに危なすぎる訳 「3密」の条件が当てはまり感染拡大が懸念. 週刊東洋経済, 4月号(GOOニュース)

2020年04月 公開

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