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テレワークや外出自粛時の糖尿病重症化予防

横田 邦信
東京慈恵会医科大学 客員教授
日本生活習慣病予防協会 参事

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで世界中の多くの人々が犠牲になっています。わが国でも「緊急事態宣言」が出され、不要・不急の外出自粛が要請され、いま人々は、これまでの生活からは想像もできない種々の強いストレス状態の生活を強いられています。感染への不安の中、テレワークや外出自粛の長期化の身体的・精神的影響は甚大です。 

 COVID-19の重症化リスク因子のひとつに糖尿病が挙げられています。一方、COVID-19の影響による生活環境の劇的変化が糖尿病の重症化リスクに繋がります。

 糖尿病の患者さんにとっては、ふだんの治療に加えて、さらにCOVID-19への備えが必要になり、負担をお感じになっているでしょう。このような自由が制限された状況下で、いかにふだんの療養生活に近い日々を送るかということが重要です。

 以下のような点に配慮して、糖尿病治療との両立に努め、パンデミック終息後、友人、知人、主治医、医療スタッフ等々と、笑顔で再開する日を楽しみに、今少しがんばりましょう。

運動療法

 在宅生活で一番影響を受けやすいのが運動療法です。屋外で運動をしたく思っても感染への不安からつい億劫になり、通常の運動も大幅に制限される結果、身体活動量は激減します。

 習慣的にスポーツジムなどに通われている場合もこのような状況下ではそこが閉鎖されて行けません。そこで、まず自宅ではこまめに動くこと(掃除など日常生活での活動)を心掛けましょう。踏み台や階段を利用した昇降運動、スクワットなどによる筋トレやストレッチなどの体操も取り入れましょう。

 一方、スペースがあれば普段行っている運動を心掛けて下さい。また、フィットネスクラブなどのライブ配信を利用した自宅での運動も良いでしょう。もし外出が気にならなければ、人通りの少ない場所と時間(できれば朝食前、昼食後、夕食前後)にウォーキング、軽いジョギング、体操などされると良いでしょう。さらに、入浴は様々な効果も期待できるので意識して入りましょう。

 適度な運動が出来ないとインスリン感受性が悪く(インスリン抵抗性)なり血糖コントロールが悪化して糖尿病の重症化リスクが増します。また、適度な運動は免疫力を高めて感染症予防にも繋がるのでしっかり行って下さい。

食事療法

 二番目に影響を受けるのが食事療法です。普段の買い物や外食などが著しく制限されます。こうした状況では、生鮮食品が少なく、保存食品や冷凍品などが多くなり、品数も制限され栄養バランス的にも偏りがちになります。可能な限り通常の食生活に準じた栄養バランスの良い食事を心掛けてください。

 また、一日三食、特に朝食はしっかり摂ることが大事です。さらに、時間が余りつい間食(菓子類や果物など)や在宅飲酒の機会が増えて摂取カロリーが過剰となりやすいので注意が必要です。なお、食事は主菜・副菜から始めてゆっくり良く噛んでください。   

 ところで近年、必須・主要ミネラルのマグネシウム(Mg)の慢性的な摂取不足が2型糖尿病の大きな発症要因の一つとして注目されています1,2)。Mg不足はインスリン抵抗性を引き起こすとともにインスリン分泌も低下させることが知られています。日常的に“こむら返り”をしばしば起こす方は基本的に慢性的なMg不足の場合が多いので、Mgを多く含む食材を積極的に摂ることをお勧めします。

 主食では、全粒粉など非精製穀物(特に大麦・雑穀)、また、緑の濃い野菜、のりやひじき等の海産物、海鮮魚介類、納豆、豆腐、きのこ類など、伝統的な和の食材*に多く含まれるので、それらをバランス良く摂るように心掛けてください。

 なお、Mg不足は便秘、片頭痛、うつ、睡眠障害等とも深く関係するほか、免疫力、特に唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度低下で口腔内の殺菌力が低下し、歯周病と細菌やウイルス感染のリスクを高めます。さらに在宅生活の生活環境では便秘になりやすいので予防の観点からも食物繊維とともにMgをしっかり摂りましょう。

*マグネシウムを多く含む食品として、そば、バナナ、ひじき、豆、五穀、豆腐、抹茶、ごま、ワカメ、野菜(緑色)、魚、椎茸、いちじく、昆布、牡蠣、芋類、納豆、とうもろこしなどがあります。「そばのひ孫と孫(わ)優しい子かい?納得!」と覚えて下さい。

薬物療法

 三番目は薬物治療への影響です。経口薬やインスリン注射が切れることは血糖コントロールを悪化させ、糖尿病重症化リスクを高めることに繋がります。

 通院への不安がある場合は、お薬が無くなる前にかかりつけ医に相談されれば、電話再診で院外処方箋を発行してもらえる医療機関も多くなりました。どうか治療薬を切らすことのないように注意してください。

日常生活への工夫

 緊急事態宣言下での在宅生活・在宅勤務は糖尿病患者さんに限らず一種の“軟禁”状態に近い生活環境で、その長期化に伴い体内時計が狂い生活リズムが狂います。したがって起床時間は極力一定に保ち、睡眠時間は最低6時間以上、できれば7〜8時間程度で良質な睡眠を心掛けてください。起床後は晴れていれば必ず日光に当たるようにしましょう。

 また、人との接触が制限された“社会的孤立”になることが精神的に大きなストレスとなり、うつを引き起こしたり、さらには血糖コントロールへの悪影響も避けられません。電話やWeb等の通信機器を用いて親族や気心が知れた人々との会話は癒しになりストレス軽減にも役立ちます。

 現在は極めて特殊な環境ですが、このような状況下だからこそ“災いを転じて福となす”と前向きに捉え、この際、今一度糖尿病の自己管理を改めて見直して重症化防止に努めてはいかがでしょう?

参考資料

1) 横田邦信:活習慣病発症要因としてのマグネシウムの重要性. 日本未病システム学会誌, 2019;25:22-30
2) MAG21研究会ホームページ

2020年05月 公開

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