2024年03月11日
中高年期の生活習慣病の予防をもう一段階推進するための新たな視点~ ILSI Japan公開セミナー第3回 レポート~
キーワード: 生活習慣 協会・賛助会員関連ニュース
中高年期の主たる生活習慣病の循環器疾患、とくに高血圧症の予防・改善には「減塩」が必須です。また近年、生活習慣病と関連の深い体重および血糖値について、時間栄養学の観点から研究が進んでいます。第3回セミナーでは、前者について京都府立大学の奥田奈賀子先生、後者について国立健康・栄養研究所の吉村英一先生が講演されています。
なお、本講演は2月28日(水)~年3月28日(木)の間(予定)、オンデマンドで公開されています(有料)。
第1回「次世代の健康のための先制医療」
第2回「子どもたちの食事の課題を嚥下・歯科、給食・食育の視点で考える」
減塩プラス増カリウムで
循環器病・慢性腎臓病を予防する視点を
京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 健康科学研究室 教授
奥田奈賀子先生
我が国は長寿国であるとともに超高齢社会であり、平均寿命と健康寿命の乖離や国民医療費の増大が問題となっていることはよく知られています。
国民医療費の7割は高齢者の医療費で占めていて、傷病別では循環器系疾患が最多です1)。また、1人あたり年間約500万円の医療費がかかる透析治療の導入疾患をみると、かつて第1位であった糸球体腎炎は着実に減少し続け、現在の第1位である糖尿病腎症も増加が停止したのに対して、高血圧を主因とする腎硬化症の増加が続いています2)。つまり、高血圧という疾患は医療費という視点からも、解決すべき大きな課題であることが明らかです。
高血圧予防のための生活習慣として、「肥満解消」「節酒」「適度な運動」「野菜・果物の摂取」、そして「減塩」の5つが挙げられます。これらのうち、肥満ではない人も多い、お酒が当てはまるのは、多量飲酒をされる方のみです。適度な運動にしても身体活動量が十分という人もいます。ですので、全国民に対して当てはまる血圧を下げるための対策は、まずは、「減塩」と奥田先生は問いかけます。
2013年に世界保健機関(WHO)は、「2025年までに各集団の食塩摂取量を30%、高血圧有病率を25%減らす」という目標を採択しました。ところがどの国でもこの目標達成は困難なようです。日本で減塩が進まない一因として奥田先生は、世帯員数の減少に伴い家庭内で料理をする機会が減り、高塩分の外食や中食の利用が増えたことを指摘します3)。
さて血圧を下げる5つのポイントのもう一つは、野菜・果物の摂取です。これまでの減塩対策に限界が見え始めている現状において、次の一手は何か? 奥田先生はこのカリウムに着目します。カリウム摂取により血圧が低下することに関しては豊富なエビデンスがあり、また野菜や果物がからだに良いとされる理由は、食物繊維やビタミンが豊富というだけでなく、カリウムが豊富なため血圧を下げるように働いてくれるからとのことだそうです。
それにもかかわらず、先生が一般の人を対象に行った調査では、食塩摂取量が多いと血圧は上がる、野菜・果物をたくさん食べると血圧は下がると約9割が回答しているにもかかわらず、カリウム摂取量が多いと血圧が上がると考えている人、下がると考えている人、わからないという人がほぼ3分の1で、野菜・果物の摂取とカリウムの関係が認識されていないと指摘します。
WHOはカリウムの摂取目標量として少なくとも1日3,510mgを提言していますが、残念ながら、日本のカリウム摂取量は漸減傾向で、大体1g以上足りないという状況が続いています(国民健康・栄養調査、厚生労働省)4)。
カリウム摂取を増やすイチオシとして、奥田先生は、価格・供給が安定しており、比較的低カロリーで、嫌いな人が少ない、「豆腐」(納豆も)、「イモ(ジャガイモ、サツマイモ)」、「牛乳・ヨーグルト」の3つの「白い食べ物」を推奨します。さらに、調味料としての低Na比/K比(K添加)調味料(25%程度を減塩し、カリウム塩に置換した調味料)の利用も紹介されました。低Na比/K比(K添加)調味料は、減塩と増カリウムでダブルの高血圧予防が期待でき、さらにカリウムの塩味増強で、減塩による塩味の低下を補完できるとのことです。
減塩がなかなか進まないという日本の現状から、奥田先生はカリウムも増やすことを、多くの方に知ってほしいと指摘しました。
■関連情報
1) 令和3(2021)年度 国民医療費の概況(厚生労働省)<
2) わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会)
3) 食環境を取り巻く社会情勢-日本人の食塩摂取状況、など(厚生労働省)
4)栄養素等摂取量(健康日本21第二次分析評価事業、国立健康・栄養研究所)
時間栄養学の視点から考える健康寿命について
国立健康・栄養研究所 栄養・代謝研究部 エネルギー代謝研究室 室長
吉村英一先生
エネルギー量や栄養素量が同じであってもそれを食べるタイミング次第で、体重や糖代謝への影響が異なる可能性があり近年、時間栄養学として研究が盛んになっています。時間栄養学というと一般的には、1日の中での食事時刻の違いに焦点が当てられますが、吉村先生のこの講演では、週単位または季節単位、あるいは一生涯というスパンで、食習慣と健康指標との関連が考察されます。
まず、若年期からの体重増加幅が同程度である場合に、20歳時点から徐々に体重が増加した人と、過去5年程度で体重増加が生じた人とを比較すると、前者では性別を問わず糖尿病発症オッズ比が約2.6と有意に高い一方、後者では女性のみ、オッズ比1.8と有意な上昇が認められたとのことです。つまり、より若い時から体重が増え始めた人ほど、健康への負の影響が強く現れると示唆されます。
次に、季節単位の変化については、年末年始が最も体重が増加しやすい時期であることが国内外の調査で明らかにされていて、加えて国内ではゴールデンウイークも体重増加が激しい時期とのこと。また重要なこととして、これらの時期に増えた体重が、完全には元に戻らないまま翌年の同じシーズンを迎え、その繰り返しによって人々は徐々に体重が増えていくというデータが紹介されます。
週単位の変化については、月曜の体重が最も重く、金曜日にかけて徐々に減るものの、やはり元のレベルまで戻り切らずに週末を迎え、翌週は体重がわずかに重くなった状態でスタートするということが繰り返されているとのことです。
続いて、時間制限食へと話が進みます。時間制限食は、カロリー制限のいらないダイエット法として最近人気の食事スタイル。さまざまな対象でさまざまなデザインの研究が行われています。吉村先生はそれらのいくつかを取り上げたうえで、メタ解析の結果として、自由摂食との比較では有意な減量効果があり、カロリー制限食との比較では有意差がないというデータを図示されます。
このほかに、食事のタイミングや量、または栄養素バランスを変えた場合、その食事の後だけでなく、次の食事の後の血糖変動にも異なる影響が現れるといった研究データを紹介。吉村先生は、時間制限食ままだ知見の蓄積が必要とされる段階であるものの、「血糖値の日内変動幅を抑えることを主眼とする場合、食事のタイミング等は考慮すべき重要な因子」と総括されています。
本レポートはILSI Japanの許可を得て、一般社団法人日本生活習慣病予防協会が作成しました。