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ステイホーム中の「多接」のススメ

池田 義雄
日本生活習慣病予防協会 名誉会長

 新型コロナ感染症(COVID-19)対策のための緊急事態宣言が5月一杯に延伸され、専門家会議による「新しい生活様式」の提言がなされました。

 その骨子は日常生活を営む上での基本的生活様式として、まめに手洗い、手指消毒、せきエチケットの徹底、こまめに換気、身体的距離(ソーシャルディスタンス)の確保、「3密」(密集、密接、密閉)の回避➡外出の自粛(ステイホーム)、加えて毎朝の体温測定、健康チェックと発熱または風邪の症状がある場合は無理せず自宅で療養、などです。

新しい生活様式の実践にともなう想定外の心身の不安・ストレス

 私たちの生活は、日々、食事をとり、活動し、人と接して情報をやりとりする、などで成り立っています。それを支える生活習慣とし「一無(禁煙)、二少(少食、少酒)、三多(多動、多休、多接)」1)が推奨されますが、新型コロナ対策にともなう新たな生活様式の実践要請は、短期間で大きく暮らし方を変えるというもので、心身に与える不安・ストレスは甚大です。

 例えばステイホームは、まさに生活習慣の大きな変化です。これがごく短期間のうちに、しかも全国民で経験するというのは、大変特異な状態と言えます。

ステイホーム期間の運動と食事

 外出自粛に伴うストレスとして、まず頭に浮かぶのは運動不足によるものです。自宅内でもできる運動など数々の情報が、TVやインターネット(ネット)等で紹介されています。また、「自粛の対象とならない外出」には、「屋外での運動や散歩など」も含まれていますから、他者との身体的距離を確保した上での、屋外での運動はおすすめです2)

 一方、今まで早食いであったり、おなかを満たすだけの食事だったり、あるいは料理へ関心が無かったような人では、ステイホームはむしろ、より健康的な食生活を始めるチャンスだという見方も可能です。ご自身で、あるいはご家族の健康を意識して、食材を選び、レシピを見ながらキッチンに立ってみるというのはいかがでしょうか。

人と接することの大切さ

  外出自粛によるステイホームの最も大きな変化は、人と会う機会が減ることです。人は「ほかの人に接すること」でストレスを少しずつ解消でき、反対にそれができないとストレスが溜まってしまいます。

 怖いのは、ストレスが慢性化することで、うつ病の発症が増え、さらにコルチゾールなどのストレスホルモンの分泌が増え、それが血糖値や血圧の上昇につながり、生活習慣病のリスクがより高まることにあります。

 そこで重要なのが「多接」。「多接」とは、多くの人・事・物に積極的に接することでストレスの解消をはかり、かつ熱中できる趣味を育み、常に創造的な生活を実践し、心の健康を高めることです1)

 創造的な生活とは、「生きがい」を持つこととも言えるでしょう。生きがいを持っているほうが長寿であるという研究報告もありますが、詳しく説明しなくても、このことは誰でも納得できるのではないでしょうか。

 また、近年、「多接」の重要性は、「フレイル」との関連からも注目されています。フレイルとは、加齢に伴いストレスに対する耐性が低下した状態を意味します。フレイルは、身体的フレイル(低栄養、嚥下・摂取機能低下、転倒など)、認知的フレイル(認知機能低下、意欲の低下、抑うつなど)、社会的フレイル(社会交流の減少による孤立・孤独、孤食など)などに細分化され、多接の機会を失うことは、これらのうちとくに社会的フレイルのリスクを高めます3)

 実際、社会的フレイルの定義として、「昨年に比べて外出頻度が減っていないか」、「友人の所を訪れる機会はあるか」、「誰かと毎日話をするか」、などのチェック項目が掲げられていて、人と接する機会が減ることが、社会的フレイルの危険因子であることがわかっています。

ステイホーム期間中の「多接」の工夫

 ところが今、ステイホームにより、人とじかに接することがままならない状況です。しかし、少し視点を変えてみれば、人と接することはいろいろな手段を用いて可能です。

 みなさんが今、ネットを介してこのページをご覧になっているように、パソコンやスマホの機能を使ってのネット上での交信や実際の会話(TV電話)は、驚くほど簡単に、いつでも、誰でも利用できるようになりました。

 通信会社の調べによると、日中のデータ通信量はステイホームという自粛以前と比較して数十パーセントも増えている一方、夜間のデータ量は数パーセントしか増えていないということです4)。この日中の増加は、主にテレワークによるネット利用が増加したためと考えられ、その利用はまだ仕事中心で、プライベートな生活に十分活用されてないという見方ができます。言い換えれば、ネット利用で「多接」のチャンスはまだまだ大きく広げられる可能性があるということです。

 もちろん、ネット以外の通信手段、例えば電話も多接の大切な手段の一つと言えます。さらに、あえて、手紙を書くこともまたしかり。文章を書く際には、自分の考えを一度頭の中で整理する工程を経るため、自分が置かれた状況を客観的に落ち着いて見つめ直すことになり、会話とはまた異なるメリットが期待できます。

 今、あなたが、あなたの友人・知人・親族に向けて一歩近づこうとすることは、あなただけではなく、ほかの人たちの多接の機会を作ること、多接の輪を広げることにつながります。その意味では、ネットはうってつけのツールです。

 まだしばらくは続くであろう外出自粛期間(ステイホーム)を、ともに楽しく乗り切っていくために、さあ、手始めに親族から、そして身近な友、古い知人、遠くにいる友に向けて「多接」を試みてみることに致しましょう。

出典・引用元

1)一無二少三多で生活習慣病を予防
2) 新型コロナウイルス感染対策 スポーツ・運動の留意点と運動事例について (スポーツ庁)
3)日本生活習慣病予防協会「ロコモティブシンドローム/サルコペニア/フレイル」
4) 平日昼間、通信量3割増 NTTコム調べ(日経新聞)

2020年05月 公開

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