一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 JPALD
生活習慣病とその予防
主な生活習慣病
メタボリックシンドローム撲滅運動 協賛連載

7. 糖尿病とメタボリックシンドローム

監修/池田 義雄
日本生活習慣病予防協会理事長
タニタ体重科学研究所所長

血液の中に糖がいっぱい「糖尿病」

 糖尿病というと、その文字から「尿に糖が出る病気」だと思っている方が少なくありません。もちろん、そういう解釈も、全く間違っているわけではなく、糖尿病で血糖値が高いときには、尿に糖が出ます。しかし、「尿に糖が出ていなければ糖尿病ではない」とは言えません。

 糖尿病は、正しく言うと、血液の中のブドウ糖「血糖」が増え過ぎる病気です。その結果、増え過ぎた余分な血糖が尿の中に排泄されるため、尿に糖が出る(尿糖が陽性になる)のです。ですから、糖尿病でも、血糖の量があまり多くない時(例えば食事の前など、血糖値がそれほど高くない時)には、尿糖陰性です。

なぜ、血液の中の糖が増えるのか

 わたしたちが食事(炭水化物)を摂ると、それはおなかの中で消化されて、ブドウ糖となって吸収され、血液中に供給され血糖になります。そして、血糖は、全身の細胞のエネルギー源として使われています。ただ、ブドウ糖が単独で細胞に入り込むことはできません。すい臓から分泌されている「インスリン」というホルモンの働きを借りて、細胞の中に取り込まれます。

 糖尿病は、血糖が増え過ぎる病気だと書きましたが、なぜそのようなことが起きてしまうのかというと、すい臓から分泌されるインスリンの働きが低下しているためです。

血液の中の糖が増えると、どうなるのか

 血液の中の糖が増えても、自覚症状はほとんど現れません。糖尿病で、喉が渇いたり、からだがだるくなったりしますが、それは血糖値が極めて高いときの症状であって、ほとんどの患者さんは無症状です。

 しかし、無症状だからといって糖尿病を治療せずにいると、高血糖によりからだ中の血管が傷め付けられ、「合併症」と呼ばれる病気が起きてきます。糖尿病は別名“合併症の病気”と呼ばれるほどで、治療が不十分な状態が続いていると、全身にさまざまな影響が現れてきます。

 代表的な合併症を挙げると、目の網膜が障害されて視力が低下する「網膜症」、腎臓の働きが低下する「腎症」、それに神経の障害、そして動脈硬化です。

糖尿病は動脈硬化の危険因子、三つ分に相当する

 血管の老化現象と言える動脈硬化は、加齢とともに進行します。しかし、その進行を速くする「危険因子」と呼ばれる要因が明らかになっていて、危険因子の数によって動脈硬化のスピードが変化し、危険因子の数が多いほど心筋梗塞や脳梗塞の頻度が高くなります。

 主な危険因子として、性差(女性よりも男性)、家族歴(血縁者に動脈硬化性の病気の患者さんがいること)、喫煙、高脂血症、高血圧、そして糖尿病などが挙げられます。日本動脈硬化学会のガイドラインでは、心筋梗塞などの動脈硬化による病気の予防のために、これらの危険因子の数をカウントし、その数が多いほどより厳格な治療をするような指針を示しています。

 危険因子は基本的に、一つ当てはまればそれを1個と数えます。しかし、糖尿病に限っては、ほかに危険因子が全くなくても危険因子が三つある状態と同じように数えます。つまり、糖尿病があると、それだけ動脈硬化性の病気が起こりやすくなるということです。

動脈硬化は、糖尿病の予備群にも起こる合併症

 糖尿病と動脈硬化の関係で、近年、とくに注目されているのは、「糖尿病の診断基準を満たさない、軽い高血糖(糖尿病予備群)の段階から、動脈硬化の進行が速くなっている」、という事実です。少し詳しく解説しましょう。

 糖尿病の合併症の多くは、糖尿病の診断基準を満たす血糖値の人に起こります。というより、正しい言い方はむしろ逆で、糖尿病の合併症が起こり得る血糖値を統計的に算出し、その数値が糖尿病の診断基準として定められたのです。

 ところが動脈硬化については、糖尿病予備群の血糖値の段階から、糖尿病の患者さんとそれほど変わらない程度に進行していることが、さまざまな研究でわかってきました。動脈硬化は糖尿病の合併症ではありますが、糖尿病だけの合併症というわけではなく、高脂血症や高血圧など、ほかの生活習慣病の合併症でもあります。糖尿病予備群の中には、そのようなほかの危険因子をあわせもっている方が、少なくないことが関係していると考えられます。

メタボリックシンドロームと糖尿病

 前の項目で、「動脈硬化は、糖尿病の診断基準を満たさない、軽い高血糖の段階から進行する」と書きましたが、糖尿病の診断基準を満たさない軽い高血糖の段階とは、まさにこのコーナーのメインテーマである、「メタボリックシンドローム」に該当します。

 メタボリックシンドロームは、内臓脂肪が過剰にたまっていることから、血糖値や血清脂質(中性脂肪やコレステロール)や血圧などの複数の検査値が軽度の異常を示し、それによって、個々の病気の診断基準を満たさない予備群の段階であるのにもかかわらず、動脈硬化が速く進行してしまう状態です。そして、年数を経るごとに、それぞれの病気を発病しやすい体質(遺伝的なこと)がより強く影響してきて、糖尿病や高脂血症、高血圧などの病気の診断基準を満たす(発病する)ようになります。

 話を整理すると、メタボリックシンドロームは糖尿病の原因であり、かつ、糖尿病の合併症の一つである動脈硬化の進行を促す状態だということです。

治療は、まず、ウエストサイズの減少

 メタボリックシンドロームに該当する糖尿病の場合、治療はまず減量、とくにウエストサイズの減少です。そのためには、糖尿病の食事療法と運動療法をしっかり続けることが、なにより効果的です。

 内臓脂肪が減ると、さきほど少しお話しした、血糖値を下げるインスリンの働きがよくなり、糖尿病が改善します。薬物療法は、内臓脂肪の蓄積を解消しても血糖値が治療目標まで下がらない場合に始めると、効果的です。

食後の尿糖や血糖をチェック!

 糖尿病の治療は、HbA1Cや血糖値などの検査値をみながら進めます。

 HbA1Cとは、検査をした時点から過去1〜2カ月の血糖値の平均と相関する値です。検査をするタイミングが食前か食後かなどの条件に左右されないため、日頃の治療のよし悪しをチェックするのに役立ちます。一般的な治療目標は6.5%未満で、できれば5.8%未満、悪くても7.0%未満にコントロールしたいところです。

 一方、血糖値のほうは、健康な人でも食事のあとに数十mg/dL高くなりますし、運動や精神的なストレスなど、さまざまな影響を受けて、時々刻々と変化している検査値です。最も影響力が強いのは、食事です。その理由は、この項の最初のほうでお話しした「血糖は食事中の炭水化物を消化吸収して作られる」ということを思い出していただければ、おわかりいただけると思います。

 最近の研究で、食前の血糖値よりも食後の血糖値のほうが、動脈硬化の進行とより強い相関関係があることがわかってきました。そして、メタボリックシンドロームに該当するような糖尿病予備群では、往々にして、食前の血糖値は正常範囲内なのに食後の血糖値が高くなっているのです。ですから、自分が糖尿病でないかどうか、または糖尿病予備群でないかどうかを、ご自身で調べてみるのもよい方法です。

 今では簡単に血糖値を測れる器具があります。また、血糖測定よりも手軽にできる尿糖測定も、正しく測定すれば、かなり役に立ちます。尿糖試験紙でもよいですし、より正確にデジタルで測れる器具も販売されています。

2006年12月 公開

※記事内容、肩書、所属等は公開当時のものです。ご留意ください。

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