一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 JPALD
生活習慣病とその予防
主な生活習慣病
メタボリックシンドローム撲滅運動 協賛連載

10. 動脈硬化とメタボリックシンドローム Q&A

監修/村勢 敏郎
冲中記念成人病研究所理事長

Q.メタボリックシンドロームでは、なぜ動脈硬化が促進されやすくなるのでしょうか?

A.前回お話ししましたように、メタボリックシンドロームは複数の生活習慣病(高脂血症、高血圧、糖尿病)が、一人の人に同時に起きている状態です。それらの生活習慣病は、すべて動脈硬化の危険因子です。それぞれの病気を個別にみれば軽症であることが少なくないのですが、複数重なって起きているため、動脈硬化が進みやすくなります。

 また、メタボリックシンドロームで複数の生活習慣病が併発してしまうのは、内臓脂肪の溜まり過ぎがおおもとの原因ですが、その内臓脂肪からは、動脈硬化の進行を速める物質が分泌されていることが近年わかってきました。メタボリックシンドロームではその影響も加わって、血清脂質や血圧、血糖値などの検査値がそれほど高くなくても、動脈硬化が促進されやすくなるのです。

Q.メタボリックシンドロームでなければ、動脈硬化になりませんか?

A.動脈硬化は血管の老化現象ですから、危険因子がなくてもある程度は動脈硬化が進みます。そのためメタボリックシンドロームでない人も、全く安心というわけにはいきません。とくに、メタボリックシンドロームの診断基準に「ぎりぎりセーフで大丈夫」なんていう人は、安心しきるのはよくありません。血縁者の中に動脈硬化性の病気の患者さんがいる方も、注意してください。また、言うまでもないことですが、高脂血症や高血圧、糖尿病などの患者さんは、それらをしっかり治療する必要があります。

Q.動脈硬化はどのように診断されるのでしょうか? 高脂血症や高血圧や糖尿病のように、なにかの数値がいくつ以上、といった基準はあるのでしょうか?

A.動脈硬化は年とともにある程度だれでも進むことが避けられない老化現象です。20歳を過ぎたころから、動脈硬化がすでに始まっています。ですから動脈硬化の検査は、病気かそうでないかを判定するという目的よりも、むしろ、血管の老化現象がどの程度進行しているか、つまり、血管年齢を把握するために行います。血管年齢とは、動脈(血管)の硬さや血管内径の狭まり具合などのことです。

 血管の硬さや内径を正確に知るには、実際に血管を取り出してみないとわかりません。しかし、そのような危険なことはできませんので、いくつかの検査によって、からだの外から血管の状態を間接的に把握することになります。

 たとえば、動脈血管の硬さを調べるには、手と足の脈のリズムの差から、血管の中を血液が流れる速さを調べる方法があります。動脈硬化が進んでいると、血管壁の弾力が失われているので、血液の流れるスピードが速くなります。

 また、血管内径の狭まり具合は、超音波を首筋に当てて調べる方法が、よく行われます。動脈硬化が進行していると、頸動脈の血管壁が厚くなっている、言い換えると、血管が細くなっていることが、画像として描き出されます。

 このほか、古くから現在に至るまで、眼底検査が行われています。眼底は人体で唯一、血管を直接、目で見て観察できる場所です。

Q.動脈硬化による発作は突然起きるとのことですが、検査で前兆を知ることはできませんか?

A.前の質問でお答えした検査によって動脈硬化がある程度進行していることがわかった場合は、より詳しい検査をすることで、心臓や脳の発作の起こりやすさを推し量ることは可能です。例えば、負荷心電図検査や血管造影、CT・MRIといった画像検査などです。それらの検査によって血管が細くなっている場所が見つかった場合、その部分が詰まる(発作が起きる)前に、予防的な治療を行うこともあります。血管が細くなっているところにステントという器具を入れて血管を広げたり、バイパス手術をするといった方法です。

 ただし、近年、検査技術が進歩したことで、血管が詰まる発作は、必ずしも血管が細くなっている部分だけに起こるわけでないことがわかってきました。これは、血管の壁にできているプラークと呼ばれる塊(コレステロールなどが血管壁に付着して大きくなったもの)が、なにかの拍子に突然破裂し、プラーク内容物や周囲から集まってきた血小板(血液を固める成分)が凝集し血栓となって血流を塞ぐ、ということでも起こってくると考えられています。

Q.動脈硬化によって引き起こされるという、狭心症や心筋梗塞、脳卒中について、少し詳しく教えてください。

A.動脈硬化には、心臓や腎臓などに負担をかけ、それらの臓器の働きを徐々に低下させる怖さもありますが、患者さんにとって最も身近に感じる怖さは、心臓や脳の発作だと思います。心臓や脳の発作がなぜ起きるかというと、それは前回、簡単に解説した「虚血」という現象です。血管が細くなっているために、組織が必要としている血液を十分に送り届けることができなくなることによります。

 心臓に虚血が起きると狭心症や心筋梗塞の発作が起こります。狭心症の場合、虚血の程度が一過性であるため、発作が治まったあと心臓の働きは問題なく回復します。これに対し心筋梗塞の発作は絶対的な虚血によるもので、心臓の筋肉の細胞が壊死してしまいます。そのため発作が治まったあとも心臓の働きに障害が残ります。また、発作に伴って不整脈などが起こり、命にかかわることがあります。

 脳に虚血が起こると脳梗塞の発作が起こります。脳の細胞も心臓の筋肉と同様に再生力がないので、脳梗塞によって失われた働きは脳の他の部分で代用せざるを得ず、リハビリテーションが必要になります。なお、虚血がごく短時間で自然に治る場合もあります。一過性脳虚血と言い、心臓の狭心症に該当すると言えます。

Q.心筋梗塞や脳梗塞の発作が起きる前には、狭心症や一過性脳虚血の発作が必ず起きるのでしょうか?

A.もしそうであれば、心筋梗塞や脳梗塞に対してもっと予防的な治療を普及させることができるのですが、残念ながら、そうではありません。その理由は、二つ前の質問の答えの中で解説したように、血管壁にできたプラークが、それ自体はまだ血管内径を完全に塞いでしまうほどの大きさではない段階で、突然破裂して血栓を作ってしまうことがあるためです。

 実際、心筋梗塞の患者さんのうち、狭心症の発作を事前に経験していた人というのはそれほど多くなく、初回の発作が命にかかわるようなこともあります。また、脳梗塞の発作の前に一過性脳虚血の発作になる人も少数です。

Q.心臓や脳のほかに、動脈硬化の影響が現れる可能性は?

A.足の動脈硬化による間欠性跛行という症状も、よくみられます。歩き始めてしばらくすると太ももやふくらはぎが痛くなり、立ち止まって休むと痛みが消え、再び歩き出すとまた痛くなることを繰り返す症状です。

 これは、足の動脈が細くなっているために、歩行によって足の筋肉に必要な酸素(血液)が増えることに対応できなくなった結果、生じる症状です。重症の場合は壊疽になって、足を切断しなければならなくなることもあります。

Q.動脈硬化は絶対治らないのでしょうか?

A.繰り返しになりますが、動脈硬化は基本的には血管の老化現象と言えます。ですから、いったん進行した動脈硬化を元に戻すことは難しい、と考えられてきました。しかし、近年では、必ずしもそうではないのではないか、ということが言われるようになってきています。

 動脈硬化の最も怖い結末と言える虚血発作を引き起こす「プラーク」の破裂について、さきほどから何度がお話ししてきましたが、コレステロール低下薬などには、このプラークを小さくしたり、あるいは破裂しにくくする作用があることがわかってきたのです。つまり、動脈硬化も部分的には治せる可能性があるということです。

 肌年齢や脳年齢、性機能、頭髪などを治療で若返らせることができるようになっているのと同じで、血管の「アンチエイジング」も不可能でなくなりつつある、という見方も現実味を帯びてきていると言ってもよいでしょう。

2007年03月 公開

※記事内容、肩書、所属等は公開当時のものです。ご留意ください。

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