一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 JPALD
生活習慣病
メタボリックシンドローム撲滅運動 協賛連載

9. 動脈硬化とメタボリックシンドローム

監修/村勢 敏郎
冲中記念成人病研究所理事長

 流行語大賞に「メタボ」がランクインするほどですから、メタボリックシンドロームという言葉の認知度は、すでにかなり高くなっているのでしょう。でも、その意味はしっかり伝わっているのでしょうか。「メタボって、肥満をカタカナで表現しただけでしょ」なんて思っている方も、いらっしゃるのではないでしょうか?

 メタボリックシンドロームとは、肥満の中でもとくに動脈硬化が進みやすい状態のことです。今回は、その動脈硬化とメタボリックシンドロームの関係についてのお話です。

先進諸国における死亡原因の第一位は「動脈硬化」

 日本人の死亡原因の第一位は何か、ご存じですか?

 毎年、厚生労働省が死亡原因についての統計を発表しています。それによると、日本人の死亡原因の第一位は「がん」で、約30パーセントを占めています。そして、第二は心臓病で約15パーセント、第三位は脳卒中で約13パーセントです。この順位は長年変わっていません。

 やはり、がんは怖い病気なのですね。しかし、ここで注意しなければいけないことは、「がん」という病名には、からだのあらゆる部位のがんが含まれているということです。肺がん、大腸がん、胃がん、肝臓がんなど、すべてのがんを足して、第一位になってます。ところが、第二位と第三位は心臓か脳という一つの臓器に起こる病気です。しかも、心臓病と脳卒中(とくに脳梗塞)の大多数は、実は、血管の老化現象「動脈硬化」によって引き起こされます。

 このように考えると、実質的な日本人の死亡原因の第一位が動脈硬化であるということがわかります。このような状況は先進諸国共通の現象です。

「人は血管とともに老いる」

 なぜ先進諸国では動脈硬化が死亡原因のトップになるのでしょうか?

 「人は血管とともに老いる」と言われます。血管の老化現象である動脈硬化が年とともにだれでも進行することは避けられません。動脈硬化が進行し、その結果引き起こされる心臓病や脳卒中で亡くなる人が多いということは、老化現象以外の原因で亡くなる人が少ないということの現れでもあります。ですからある意味で、その国の医療が発達していることを示しているとも言えます。開発途上国では、感染症や栄養不良などにより、若いうちに亡くなってしまう方が少なくありません。

 ただ、先進諸国で動脈硬化による死亡率が高いことには、もう一つ大きな理由があります。それは、人々の生活習慣に根差しています。動脈硬化は血管の老化現象ではあるのですが、その老化現象を速めてしまうような生活を送っている人が、先進諸国に少なくないのです。

動脈硬化には、その進行を速める「危険因子」がある

 年齢は同じなのに、年よりも若く見える人がいれば、そうでない人もいますね。血管も同じです。同じ年齢なのに、年齢以上に血管の老化「動脈硬化」が進んでいる人がいますし、反対に、高齢でも血管を若々しく保っている人もいます。その違いを生む原因がなにかというと、動脈硬化の「危険因子」と呼ばれるいくつかの要因です。

 危険因子の中には、性差(女性より男性)や家族歴(血縁者の中に動脈硬化による病気の患者さんがいること)など、生まれつきの要素もありますが、それ以上に強く関係しているのは、喫煙、そして高脂血症、高血圧、糖尿病などの「生活習慣病」と呼ばれる病気です。

 これらの病気を数多くもっているほど、そして、その程度が重い(治療が状態が良くない)ほど、血管の老化が早く進みます。つまり、動脈硬化が実年齢よりも早く進行してしまいます。

 このようなことは、だいぶ以前からよくわかっていました。そこで古くから、高脂血症の患者さんには血清脂質を下げる治療、高血圧の患者さんには血圧を下げる治療、糖尿病の患者さんには血糖を下げる治療が行われてきたのです。そして、その治療は実際に効果を挙げてきました。高脂血症や高血圧でも、それをしっかり治療すれば、動脈硬化による心臓病や脳梗塞が減ることが明らかになっていったのです。

生活環境の変化によって、隠れていた危険因子が新たに登場

 ところが、血清脂質も血圧も血糖もそれほど高くなく、治療の必要はないと考えられていた方の中にも、心臓病や脳梗塞になってしまう方がいることが、徐々にクローズアップされてきました。やがて、そのような現象の背景に、血清脂質や血圧、血糖などの検査値を個別にみればそれほど悪くなくても、少し悪い値が複数あると、動脈硬化が速く進むことがわかり、「マルチプルリスクファクター(危険因子複合)症候群」と呼ばれるようになりました。

 そして近年になり、マルチプルリスクファクター症候群の原因が、おなかの中に脂肪が過剰に溜まる「内臓脂肪型肥満」であることがわかってきたのです。このようにして、メタボリックシンドロームという概念が登場してきました。

 同時にこの10〜20年、先進諸国を中心に社会が豊かになり、生活が便利になりました。人々は簡単に食べ物を口にでき(=飽食)、反面、あまりエネルギーを消費しない(=運動不足)世の中になりました。人々のおなかの中に脂肪が溜まりやすい社会環境に変化したのです。そのために、メタボリックシンドロームに当てはまる人の数が、世界的に増えてきています。

 話をまとめると、従来は病気ではない、または病気であっても軽症だと考えられていた人の中に、動脈硬化の進行予防という観点では見過ごしてはいけない人たちが隠れていた、それがメタボリックシンドロームということです。メタボリックシンドロームは、ただ単に「太っている」ことをカタカナにした言葉ではないのです。

動脈硬化による病気

 では、動脈硬化とは、いったいどんな病気なのでしょうか。漢字の意味からは、動脈が硬く変化する病気であることがわかります。

 動脈の血管壁は本来、新品のゴムホースのようにやわらかくしなやかで適度に弾力があり、血液が全身をスムーズに負担なく流れるのを助けるような構造になっています。その血管壁が硬く変化すると、血液が流れる際の圧力が高くなるので、血圧が高くなりますし、心臓には強い負担がかかります。

 このように、動脈硬化は文字どおり動脈が硬く変化する病気です。しかし、それだけではなくて、もう一つ、血管内径が狭くなるという側面もあります。よく、「血管が細くなっている」といった言葉で表現される状態です。

 血管内径が狭くなると、当然、血液が流れにくくなります。そのために生じる、必要な場所に必要な量の血液が供給できなくなる状態を「虚血」と言います。虚血が心臓に起こると、狭心症や心筋梗塞などの発作が起きます。脳の虚血は脳梗塞です。

動脈硬化は自覚症状に現れずに進行する

 このような命にかかわるような発作をある日突然引き起こすまで、動脈硬化は自覚症状に現れずに進行します。また、進行した動脈硬化を元の状態に戻すことは、今の医学ではできません。動脈硬化に対して今の私たちにできることは、危険因子を減らし、その進行スピードを遅くすることです。

 危険因子の一つのメタボリックシンドロームは、もちろん自覚症状はありませんし、検査値の顕著な異常もみられないことから、つい軽く見てしまいがちです。しかし、メタボリックシンドロームがなぜいけないのか、その理由をきちんと知れば、それを解消せずにはいられなくなるのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

2007年02月 公開

※記事内容、肩書、所属等は公開当時のものです。ご留意ください。

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