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ハーバード大学研究チーム、最新テクノロジーによるくるみの健康効果を発表 「くるみを摂取した後の代謝物が2型糖尿病や心血管疾患のリスク軽減に関係することが明らかに」

キーワード: 協会・賛助会員関連ニュース 食生活

 カリフォルニア州フォルソム(2021年2月2日)―ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究チームがAIの機械学習を利用して、アメリカ人の死因上位にランクインする2型糖尿病や心血管疾患のリスク軽減につながる可能性のある、くるみの成分特定に成功しました。
 『Journal of Nutrition』誌に掲載された論文1によると、研究では機会学習の新しいアプローチ法(agnostic machine-learning)を用いて、くるみを摂取した際に生成される19の代謝物が同定されました。代謝によって生成・消費される代謝物は、身体が摂取した食べ物に応じて生成されます。本研究では、くるみを摂取した際の代謝物には、2型糖尿病では17%、心血管疾患では29%のリスク軽減への関与が明らかになりました。
 くるみの代謝物と心血管代謝疾患リスクとの関連を検証したのは今回の研究が初めてであり、本研究を支援しているカリフォルニア くるみ協会は、「くるみと心疾患に関する30年にわたる研究がまた一歩大きく前進した」とコメントしています。

(カリフォルニア くるみ協会)

 心筋梗塞や心不全などの心疾患と脳卒中などの脳血管疾患を合わせた心血管疾患は、世界の死因の1位であり2、日本においてもがんに続き死因の第2位となっています3。糖尿病がある人では、糖尿病でない人に比べて心血管疾患の発症リスクや血管疾患により死亡するリスクが高まることが、さまざまな疫学研究から明らかとなっています4,5

 ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院栄養学の科学研究員であり、本研究の主任研究員であるマルタ・グアッシュ=フェレ博士は、本研究結果を受け、次のように述べています。

 「最新テクノロジーを活用した本研究では、くるみには特異的な代謝学的特徴があることが明らかになりました。これは、くるみがどのように健康に良いのかを知る上での大きなステップとなります。また、今回利用したような最新テクノロジーは、今後の栄養摂取についてのアドバイスのあり方を作っていくと言えます。データ駆動型のテクノロジーによって、食生活と疾病の関連についての理解が深まり、栄養に関する個別化アプローチも可能になりました。これは、さまざまな健康問題の予防や管理に役立っています」

 この研究では、PREvención con DIeta MEDiterránea(PREDIMED、地中海食による疾患予防)と呼ばれる試験の被験者1,833人のデータを精査しました。PREDIMEDとは、心血管疾患の高リスクグループを対象とする、地中海式食生活と心血管疾患予防との関連を複数年にわたって調べたスペインの大規模調査です。

 この試験では、55〜80歳の対象者を、1)ミックスナッツ(くるみ50%、アーモンド25%、ヘーゼルナッツ25%)を加えた地中海食、2)エキストラバージンオリーブオイルを加えた地中海食、3)低脂肪食をそれぞれ摂取する3つのグループに分け、経過を観察しています。その結果、くるみの代謝物が2型糖尿病や心血管疾患発症の抑制に関与することが明らかとなりました。これにより、くるみを取り入れた健康的な食生活と良好な心血管代謝との関連が改めて確認されました。今回の疫学研究のように、新規テクノロジーを利用することで、今後も食生活と疾病の関連が明らかになっていくと期待されます。

 ただし本研究では、対象者がスペインの高齢者に限定されていることから、他のグループを対象として検証を重ねる必要があり、因果関係を十分に証明する必要があります。また、代謝学が急速に発達している点を考慮すると、今回特定された以外のくるみ摂取のバイオマーカーやくるみを摂取した後の個々人の代謝反応を確認する研究も必要と思われます。

コメント

 今回の研究について、日本生活習慣病予防協会理事長の宮崎滋先生は、くるみ摂取が2型糖尿病や心血管疾患の予防に寄与する可能性を示すものであり、注目すべきとして、次のように評価しています。

 この研究では、PREDIMED試験のデータを元に、新しいアプローチ法によりくるみを摂取した際の代謝物と2型糖尿病、心血管疾患リスクとの関係が検証されています。スペインで行われた同試験は、健康に良いとされる地中海食をとっている人の中で、くるみなど堅果類摂取群と、オリーヴ油を摂取した群、および低脂肪食を摂取した群で心血管疾患の予防効果を比較したものです。

 地中海食や低脂肪食は、もともと2型糖尿病や心血管疾患を予防する食事とされており、その中でもくるみ等堅果類を多く食べることで予防効果が高まるのは注目すべきです。

 日本人はくるみなど堅果類を多く食べる食習慣があまりないので、今後はくるみの摂取を日常の食事に取り入れることをおすすめします。ただこの研究は、くるみの摂食による代謝物の類似性を見たものであり、スペインの高齢者を対象とする研究なため、実際の因果関係を前向き研究で確かめる必要がありますが、くるみを摂取すると2型糖尿病や心血管疾患の予防に有用であることを示唆するものだと言えます。

参考文献

  1. Guasch-Ferré M, Hernández-Alonso P, Drouin-Chartier JP, et al. Walnut Consumption, Plasma Metabolomics, and Risk of Type 2 Diabetes and Cardiovascular Disease [published online ahead of print, 2020 Dec 31]. J Nutr. 2020;nxaa374. doi:10.1093/jn/nxaa374
  2. World Health Organization. Cardiovascular Diseases: Fact Sheet
  3. 厚生労働省 『令和元年(2019)人口動態統計』
  4. Tominaga M,et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular diseases, but not impaired fasting glucose. The Funagata Study. Diabetes Care 1999; 22: 920-924
  5. The DECODE Study Group. Glucose tolerance and cardiovascular mortality. Arch Intern Med 2001; 161: 397-404.

カリフォルニア くるみ協会 (California Walnut Commission)

 カリフォルニア くるみ協会は、カリフォルニア州の約4,800軒のくるみ生産者と約100社のくるみ加工・販売業者から成る、カリフォルニア州食品農業局(CDFA)管轄の非営利団体です。1987年に設立され、生産者の課徴金と米国連邦農務省からの活動資金により、各種調査・研究、輸出相手国において商品の販売を伴わない啓蒙活動を行っています。
 海外では日本の他に韓国、インド、トルコ、UAE、EU、ドイツ、スペイン、イギリス、カナダに代表事務所を置いています。対日活動は1986年にスタートし、その主な役割はカリフォルニア産くるみの需要拡大を目的とする宣伝、PR、販売促進、調査などを企画実施することにあり、高品質なカリフォルニア産くるみを広めるための様々なマーケティング活動を展開しています。現在カリフォルニアくるみ産業界は世界で流通するくるみの約2/3を生産しています。

[mhlab]

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