一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 JPALD
生活習慣病とその予防
主な生活習慣病
ニュース

ウェアラブル機器による脈拍・体温等のモニターは生活習慣管理に有用

キーワード: 高血圧 「多動」身体を活発に動かす 身体活動・運動不足

 血圧・心拍数やその変動および身体活動量などの日常生活下で得られる生体情報は、高血圧や糖尿病等、生活習慣病の予防や治療に重要ではあるが、測定機器の装着性やコスト負担などのため、現状ではそれらをモニター可能な対象・施設が限られている。一方、近年、ウェアラブルで装着性にすぐれた計測機器が開発されてきており、臨床への応用が期待され有用性の評価が進められている。さきごろ開催された第37回日本高血圧学会総会(10月17〜19日・横浜)においても、腕時計型の脈拍計や耳孔温度計による24時間連続計測の実用性・有用性に関する検討結果が報告された。

 横浜市立大学大学院医学研究科疫学公衆衛生学の小野香奈子氏らは、ABPM(24時間自由行動下血圧測定)と腕時計型脈拍・加速度計および耳孔温度計を用いた計測を同一対象に施行し、日常生活状態での変動の関連性を検討した。ABPMはテルモ社のES-H531、腕時計型脈拍・加速度計は同氏らが開発にかかわったセイコーエプソン社製品、耳孔温度計はニプロ社のCEサーモを用いた。
非高血圧または未治療高血圧では脈拍が血圧と相関する
 3機種による同時測定に先立ち、ファーストトライアルとして、健常者と高血圧患者、計142名を対象としたABPMによる血圧と脈拍数の関係を検討した。その結果、ABPMで血圧が正常であった群(n=98)ではその67.3%が、収縮期血圧・拡張期血圧と脈拍が有意に正相関していた。また高血圧患者であっても降圧薬を服薬していない群(n=37)では、その54.1%が両者に有意な正相関がみられた。しかし降圧薬による治療を受けている群(n=7)では有意な相関を認めた患者の割合が28.6%と低かった(表1)。
 このことから、高血圧発症前、または発症後であっても降圧薬未使用の段階では、日常生活下での脈拍計測により、血圧や血圧変動を推定できる可能性が示された。

表1血圧正常者・高血圧者におけるABPMによる血圧と心拍数の関係
 〜ファーストトライアル〜
ABPMで測定した血圧正常者のうち67%と、未治療の高血圧患者のうち54%が血圧と脈拍に有意な正の相関を示した。これらの被験者では、脈拍から血圧の変動を推定できる傾向にある。
数字は 有意な正相関関係を示した者 / 該当者(割合)を示す

脈拍数から自律神経障害の有無やCPAPの治療効果を評価できる可能性
 続いてセカンドトライアルとして、健常者5名、高血圧患者3名、糖尿病患者4名、計12名を対象に、ABPM、腕時計型脈拍・加速度計(wristwach-type pulsimeter with accelerometer.以下、WPAと省略)、耳孔体温計の3機種を同時装着し、これらについて、特に睡眠中の変動に注視し解析した。
 まず、ABPMによる血圧と脈拍の関連を検討すると、12名中7名が両者の間に有意な正の相関を認めたが、糖尿病患者に限ると有意な正相関を認めたのは1名のみで、ほか3名の糖尿病患者のうち2名は相関なし、1名は有意な負の相関がみられた(表2)。また、両者に負の相関を認めた高血圧患者は仮面高血圧、起立性高血圧であることが確認された。血圧と脈拍数は一般に交感神経系の支配を受けることから、これらが負の相関となる糖尿病患者や降圧薬未使用高血圧患者は、自律神経障害が関与している可能性が想定される。

表2ABPMによる血圧とWPAによる脈拍数の関係
 〜セカンドトライアル〜
12名中7名が有意な正の相関を示す。2名が負の相関を示し、内1名は糖尿病患者。糖尿病患者4名中、正の相関を示したのは1名のみ。

 次に、ABPMとWPAによる脈拍数の相関をみると、両者は正の相関をとり測定差はわずかであることが確認された。WPAはABPMと異なりウェアラブルながら、消費エネルギー量や脈拍数を測定でき、かつその脈拍数から血圧変動性や、高血圧重症度と強く相関する睡眠中の血圧基底値を推測可能であり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防や治療の一部に有用性を生かせるケースは少なくないと考えられる。
 続いて睡眠中の変動についてみると、糖尿病患者の脈拍数は非糖尿病者に比して有意に高いことが認められた。さらに睡眠時無呼吸症候群(SAS)症例(1名)では、持続式陽圧呼吸療法(CPAP)施行により1日を通して脈拍の変動が少なくなるとともに、睡眠中の体動が減ることがWPAのデータから示された。
 このほか、睡眠中の脈拍数と耳孔温度の間に相関は認められなかったが、基底脈拍数領域では耳孔温度が最も低くなることが確認された。また12名中11名では睡眠中に耳孔温度が低下していたものの、糖尿病症例の1名はこの変化が観察されなかった。

腕時計型脈拍・加速度計によるサーカディアンリズムのモニターは
生活習慣病の予防・治療に有用
 以上のまとめとして小野氏は「ABPMに加えて腕時計型脈拍・加速度計(WPA)や耳孔温度計が、サーカディアンリズムをモニターし生活習慣病を管理・予防するために有効と思われる」と結論した。またWPAについては、装着・携帯が用意で拘束感がなくエネルギー消費量も測定でき、降圧薬使用者を除けば血圧変動を推測できると考えられ、かつ、睡眠の質の評価にも利用できる可能性があるという特性に触れた。

関連ページ
腕時計型心拍数加速度計で高血圧治療の質を向上。基底血圧の推算も
[mhlab]

関連トピック

疾患 ▶ 高血圧

2022年08月22日
睡眠を改善するスマホアプリを開発 スマホで「不眠症の認知行動療法」 京都大・沖電気など
2022年06月06日
高血圧リスクはタンパク質を多様な食品から摂ると減少 通勤時のウォーキングで糖尿病リスクも低下
2022年06月06日
生活スタイルの改善による寿命延伸 生活習慣病の多い人ほど効果は高い 80歳以降でも有用
2022年05月16日
「運動」と「お酢」を組合わせると体重・高血圧・血糖が改善 保健師監修の「毎日運動プラン」を実施
2022年04月13日
奥歯の噛み合わせが悪い高齢者は、高血圧リスクが1.7倍に上昇 口の健康が身体機能の維持に関連

生活習慣 ▶ 身体活動・運動不足

2022年09月22日
日本の女性のやせ過ぎ問題とその栄養対策 Part 1 若い女性のやせ過ぎ問題は待ったなし!
2022年09月20日
子供の内臓脂肪面積の測定方法を開発 小児期からの肥満予防に活用 コロナ禍で肥満傾向の子供は増加
2022年09月20日
糖尿病予備群の段階から「サルコペニア」のリスクは上昇 早期からの生活スタイル改善が重要
2022年07月04日
子供の頃の運動不足が中年期以降の認知症に影響 運動は認知能力を高める 健康改善は早いほど良い
2022年06月06日
「ヨガ」「太極拳」にストレス解消とリラックスの効果 初心者も気軽に自宅でできる

一無・二少・三多 ▶ 「多動」身体を活発に動かす

2021年04月16日
自分の身体能力を過信している高齢者は体力が低下しやすい コロナ禍でも体を動かし活発な生活を フレイル予防アプリも公開
2021年04月16日
運動をすると睡眠を改善できるのはなぜ? 日中に活発なウォーキングを1時間行うと効果的 睡眠時の脳波を調査
2021年04月16日
高齢者の「フレイル」は家電の利用状況を調べれば分かる 電気使用を見える化する「スマートメーター」で高齢者の健康をチェック
2021年04月16日
オフィスを活動的にすると「座り過ぎ」が減る 肥満やメタボの検査値も改善 オフィス環境づくりは大切
2021年04月16日
歩く人にやさしい町づくりで認知症リスクを半分に減らす 歩きたくなる町をデザイン クルマ中心からヒト中心の空間に
市民公開講演会参加者募集中!
明治PA3
新着ニュース

トピックス&オピニオン

Dr.純子のメディカルサロン こころがきれいになる医学
保健指導リソースガイド
国際糖尿病支援基金
糖尿病ネットワーク 患者さん・医療スタッフのための糖尿病の総合情報サイト
糖尿病リソースガイド 医師・医療スタッフ向け糖尿病関連製品の情報サイト
日本健康運動研究所 健康づくりに役立つ情報満載。運動理論から基礎、応用を詳細に解説
日本くすり教育研究所 小・中学校で「くすり教育」を担う指導者をサポート