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コロナ禍での高血圧症患者さんの過ごし方

キーワード: 生活習慣 高血圧 一無・二少・三多 協会・賛助会員関連ニュース

jpald_M_logo150.png  一般社団法人日本生活習慣病予防協会では、新型コロナウイルス感染症の拡大(コロナ禍)に対して、「トピックス・オピニオンー新型コロナ関連」として、当会役員による情報発信を行っています。
 今回、当協会理事に新しくご就任された齊藤 郁夫先生による「コロナ禍での高血圧への対処―6つのTIPS」をご紹介致します。
 齊藤 郁夫先生は、2000年より、日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン』のアップデートに関わってこられた高血圧症のスペシャリストです。
 コロナ禍での生活では、誰にでも、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を発症するリスクがあります。
 今回の6つのTIPSは、高血圧症の患者さんに限らず、生活習慣病を予防するためのヒントでもあります。
 皆様やご家族、あるいは職場で、また、全国で健康増進事業に携わられている方々のお役立ていただけることを願っております。  

コロナ禍での高血圧への対処―6つのTIPS

齊藤 郁夫
慶應義塾大学 名誉教授
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 理事


 新型コロナワクチン接種の進行でようやく新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の拡大の終わりが見えてきました。
 コロナ禍が始まって約1年半の間、高血圧症の患者さんを診察してきた経験から、新型コロナウイルスと高血圧との関係について振り返り、コロナ禍での高血圧への対処について日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン(JSH)2019』を参考にしてまとめさせていただきました。

新型コロナと高血圧

 最初に、高血圧と新型コロナの関連について簡単にまとめておきます。

 新型コロナの拡大当初から、感染後に重症化しやすい背景をもつ人の存在が注目されてきました。重症化しやすい背景として、高齢者や肥満者、喫煙者などとともに、何らかの基礎疾患のある人が挙げられます。例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、心血管疾患が該当し、高血圧もそれに含まれます。

 また、新型コロナウイルスがヒトに感染する機序が明らかになると、高血圧の治療薬が感染リスクを上げるのではないかとの懸念が一時的に広がりました。どういうことかと言うと、新型コロナウイルスは、血圧の調節に関与しているアンジオテンシンという生理活性物質の代謝過程の一部に働く「アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)」を足場として細胞内に侵入することがわかったのです。新型コロナワクチンはACE2に付く突起である、コロナウィルスのS蛋白を覆って、ACE2に付けないようにする抗体を作る効果があります。

 となると、高血圧の治療に用いられている、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)という薬はACE2を増加させるため、新型コロナの感染や重症化リスクを高めるのではないかと疑われたのです。しかし、この可能性はその後に否定されました。

 ところで、高血圧と新型コロナの関係は、双方向性とも言えます。つまり、高血圧の人は新型コロナ感染に注意が必要なことに加えて、外出自粛による運動不足や、出前(デリバリー)の利用機会の増加による塩分摂取量増加などが、血圧コントロールに悪影響を及ぼすことが懸念されます。

 そこで、コロナ禍での高血圧症患者さんの過ごし方の要点を、筆者の身の回りで起きた事例を紹介しながら、6つに絞ってお話しします。

コロナ禍での高血圧への対処ー6つのTIPS

1. のんでいる高血圧の薬を続ける

 2020年4月に緊急事態宣言が出され、多くの会社が在宅勤務体制をとりました。ある56歳の高血圧症の男性は、それまで勤務先近くの内科医院に通院し、薬をもらっていました。しかし、会社に出社しなくなったので受診できず、薬がなくなってしまいました。 服薬中は血圧が130/80mmHgにコントロールされていたのですが、中断後170/100mmHgになりました。出社再開後、急いで薬をもらいに行きました。その後、血圧は正常に戻ったとのことです。

 高血圧の薬を中断すると、1か月程度で血圧は治療前に戻ってしまいます。不運なケースでは、この時期に脳卒中、心筋梗塞などを起こしてしまいます。このような事態を予防するためには、おくすり手帳を持参し、自宅近くの内科医院に受診して薬を処方してもらうといいでしょう。

 新型コロナが怖くて、病医院には行きたくないという方もいるかもしれません。そのような場合は、電話で相談し処方してもらう、あるいは、遠隔医療を利用することもできます。糖尿病でも脂質異常症でも高尿酸血症でも、とにかく薬は欠かさずに続けましょう。

2. 間食を控え、運動する

 58歳の女性、これまでの健康診断では血圧140/80mmHg程度で、食事、運動に気を付けることで経過をみていました。ところが、2021年春の健康診断では、血圧が170/100mHgと上昇していました。コロナ禍で運動しない、お菓子の食べる量が増えてしまったようです。

 早速、息子さんの持っていた室内用のバイクを借り、毎日30分運動し、お菓子をやめると決心。3か月で体重を7?減らし、家庭血圧も130/80mmHg程度に下げることができました。ご主人もそれを見て、一緒に、仲良く頑張っているそうです。

 なお、JSH2019ではbody mass index(BMI)25未満を目標とすることを推奨しています。

3. 家庭血圧を測定する

 忙しい人が毎日家庭血圧をはかるのは大変でしょう。初めは週末だけでも構いません。JSH2019では朝の起床時に2回、晩の就寝前に2回測定することを勧めています。

 測ったらすぐに手帳に書きます。血圧は毎回、違う数字になることがほとんどなので、書かないとすぐ忘れてしまいます。2回測定すると、1回目は高いけど、2回目は少し下がる人が多いです。逆に、2回目に上がる人も10%くらいいます。どちらが本当の血圧なのか疑問になるでしょうが、それはさておき、2回測定の平均を計算します。1か月続けると8つの朝、晩の家庭血圧が測定され、それらの平均を計算します。

 家庭血圧は、病院内で測る診察室血圧より確かな血圧値です。もし、忙しい勤務日の朝にも測ることができれば、週末の家庭血圧より高くなっているかもしれません。

 JSH2019では家庭血圧のコントロール目標を135/85mmHgとしているので、それ以上なら、内科に受診して相談してください。

4. 在宅勤務の後に夕方歩く

 コロナ禍、緊急事態宣言下で在宅勤務が増えました。会社への電車通勤の場合1日に5,000〜6,000歩程度歩くことが多いでしょう。しかし、在宅勤務になると、ほとんど歩く必要がないので、500歩前後に激減すると思います。

 仕事終了後、夕方に1時間程度、自宅周囲の散歩をするとよいでしょう。これで6,000歩程度増やすことができます。混雑したところを避ければ、新型コロナの心配も少ないでしょう。

 JSH2019では、週180分以上の軽度の有酸素運動を推奨しています。

5. お酒はほどほどに

 コロナ禍で飲み会がほぼなくなり、もともと飲み会でしか飲まなかった人は酒の量が減ったことでしょう。反対に、毎日飲む習慣のある人の中には、お酒の量が増えているひともいます。

 JSH2019でも、また当協会の健康習慣(一無、二少、三多)でも、1日で日本酒1合あるいはビール1本を目安にすることが勧められています。

6. 塩分は控えめに

   JSH2019では、高血圧の人の場合、1日の食塩摂取量を6g以下とすることを勧告しています。日本人はふだん通りに食事をすると、おおよそ10gの食塩摂取量となります。

 自分がどれだけ食塩をとっているか調べることはあまりないかもしれません。しかし、尿の中のナトリウムイオンとクレアチニンを検査センターで簡単に、安価に測定することができます。その結果から、1日の食塩摂取量を計算できます。内科医院で相談してみるとよいでしょう。

 健康診断で高血圧と診断された大学生約100人に協力してもらい、上記の方法で1日食塩摂取量を測定し、1か月後に結果を本人に教え、さらに、もう一度測定。その後、減塩を意識して食べてもらい、2か月後に3度目の1日食塩摂取量を測定しました。1回目と2回目は平均9.5gで変化なく、減塩に取り組んだ3回目では平均8.1gと、1.5g程度減少していました。そして血圧は、平均158/82mmHgから143/78mmHgに低下していました。


 以上、コロナ禍での高血圧への対処についてJSH2019に基づいて6つのヒント(TIPS)を述べました。
 日本高血圧学会では2000年から4〜5年ごとに高血圧治療ガイドラインをアップデートしており、筆者はそのすべてに関わってまいりました。
 コロナ禍での生活では、誰にでも、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を発症するリスクがあります。
 今回の6つのTIPSは、高血圧症の患者さんに限らず、生活習慣病を予防するためのヒントでもあります。参考にしていただければ幸いです。

[mhlab]

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