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日本の女性のやせ過ぎ問題とその栄養対策 Part 3 筋肉貯金を始めよう!

キーワード: 生活習慣 一無・二少・三多 骨粗鬆症/ロコモティブシンドローム/サルコペニア 協会・賛助会員関連ニュース 女性の健康 食生活

 若い頃と食べる量は同じなのに、最近太りやすくなってきた......。いわゆる中年太り。実は、この中年太りの裏にあるのが、筋肉の減少です。筋肉量は20~30代をピークに加齢とともに減っていきます。これまでと同じような生活をしていても40代から徐々に減少の度合いが加速します。
 筋肉量が減ると基礎代謝も低下して消費エネルギーが抑えられますから、以前と同じ生活を続けていると、どうしても太りやすくなります。
 筋肉量を減らさないこと、とくに、やせ過ぎで筋肉量が減ってしまっては、健康リスクが増大してしまいます。筋肉量を減らさないような食生活、運動習慣といったライフスタイルを獲得し、若い時から「筋肉貯金」を始めることが大切です。
 Part 3では、当協会理事 蒲池 桂子先生(女子栄養大学 栄養クリニック 教授)にコメントを頂きました。

一般社団法人 日本生活習慣病予防協会

「日本人の食事摂取基準」改定

  国民の健康保持·増進を図る上で望ましいエネルギーや栄養素の量の基準を示す「日本人の食事摂取基準」の最新版(2020年版)では、超高齢社会の進展を踏まえ、健康の保持・増進、生活習慣病の発症・重症化予防に加え、新たに高齢者の低栄養予防・フレイル予防を視野に入れた改定が策定されています。

目標とするBMI値

 最新版では、50歳以上が3つの区分が細分化され、BMIの下限値が上がり、50~64歳は20.0以上で、65歳以上は21.5以上となりました。高齢になるに従い、普通体重の範囲であっても、BMIの低め、やせ過ぎは良くないということです。

fig07r.png
タンパク質目標量の引き上げ

 改定前は、18歳以上は摂取エネルギーに対して13~20%を目標としていましたが、2020年版では、50歳以上の年代におけるタンパク質の目標量が引き上げられ、50~64歳は14%、65歳以上は15%になりました。

 高齢になると、食事量全体を増やし、エネルギー摂取量を十分確保した上で、タンパク質の摂取量を増やして、筋肉量の低下を防ぐことが、低栄養予防・フレイル予防には大切です。 fig08r.png

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(厚生労働省)
タンパク質は筋肉のもとになる必須の栄養素

 タンパク質は、筋肉や臓器、血液、ホルモン、酵素、髪、爪などの組織を作る材料になる必要不可欠な栄養素です。炭水化物やタンパク質の摂取量が不足すると、筋肉を壊して、タンパク質を構成するアミノ酸をエネルギーとして確保しようとするため、さらに筋肉量が減ったり、髪の毛がぱさついたり、爪が弱くなったりします。

 体内に侵入したウイルスや細菌を排除する抗体や白血球などの免疫細胞もタンパク質が材料であるため、タンパク質が減ると免疫力も低下します。新型コロナウイルス感染症に高齢者が感染しやすく、重症化しやすい一因にはタンパク質不足もあります。

筋肉は何もしなければ、40代から気づかぬうちに減っていく

 筋肉は、なにもしなければ歳とともに減っていってしまいます。40歳の手前あたりから減り始め、60歳前後からは急速に減っていきます。貯金の切り崩しが起きるということです。

 高齢になるほど筋肉を合成する力が弱くなるため、若年者と同じ量のタンパク質を摂取しても、作られる筋肉量に差が出てしまいます。

 若いころの運動習慣が少なく、やせていた人では、加齢に伴う筋肉貯金の切り崩しがより深刻な結果を招く可能性が高いのですが、若いころに体を鍛えていた人も油断は大敵です。

 摂取エネルギー不足を防ぎ、かつタンパク質を摂取する効率的な「筋肉貯金」に適した食事のとり方を工夫しましょう。

タンパク質摂取+運動習慣の獲得で、理想体型を目指そう

 炭水化物とタンパク質のとり方を工夫しましょう。炭水化物は、主に主食として食べる米やパン、麺類などに含まれ、炭水化物に含まれる糖質は脳や体を動かすエネルギー源として必須です。

 エネルギー不足では、体のタンパク質を分解してエネルギーの源として利用する(体タンパクの異化亢進)ため、筋肉が減ってしまいます。ですから、過剰な糖質(炭水化物)制限が、かえってやせ過ぎや低栄養による健康障害をもたらすこともあります。

 炭水化物をエネルギー源として効率的に使うには、全身のインスリン感受性を高める(インスリン抵抗性を下げる)必要があり、その方法は、身体活動を多くして筋肉を使い筋肉量を増やすことです。

 その筋肉量を増やすために必要な栄養素は、タンパク質です。食品で言えば、肉や魚、牛乳、乳製品などです。ここでは、身体活動とともに重要なタンパク質のとり方のエッセンスを4つに絞って紹介します。

ポイント➊ タンパク質は毎食とる必要がある

 三大栄養素と言えば、炭水化物とタンパク質、そして脂質ですが、それらのうち、炭水化物(糖質)は肝臓や筋肉のグリコーゲンとして、脂質は脂肪として蓄えることができるのに対して、タンパク質はほかに代用できる栄養素がありません。ですから毎食、適量ずつ食べる必要があります。

ポイント❷ 朝食のタンパク質がより重要

 睡眠中は絶食している状態です。絶食状態が続いている睡眠中は、タンパク質の供給が途絶え、睡眠の後半は筋肉の分解が進行しやすくなります。ですから、朝食を摂らないでいると、昼食までの絶食時間がさらに続いてしまい、筋肉の分解も一層進むことになります。

 朝食は、失われたたんばく質をきちんと補って、筋肉の分解から合成へと軌道修正する大事なタイミングです。ところが今、朝食抜きの人が少なくありません。国民健康・栄養調査(2019年度)によると、朝食の欠食率は男性全体で15.5%、女性全体で9.1%。とくに女性では、20代(35.7%)、30代(33.3%)での欠食率が高い結果です。

 朝食を抜くと、タンパク質だけでなく、他の栄養素も補うことができません。その結果、生活習慣病のリスクや、子どもでは肥満のリスクも上がります。健康のためにも朝食は抜かないようにしましょう。 また、最近の研究から、体内時計の調整には、朝、強い光を浴びることに加えて、タンパク質を摂取することも関与していることがわかっています。

ポイント❸ タンパク質の"質"に注目

 タンパク質は20種類のアミノ酸で構成されています。その20種類のうち、9種類は体内で作り出すことができず、食べ物からとり入れなくてはなりません。それらを「必須アミノ酸」といいます。それら9種類の必須アミノ酸がバランスよく含まれているタンパク質のことを"質の高い"タンパク質といい、筋肉の合成を刺激するアミノ酸もこれに含まれます。

 肉類のほかに牛乳や乳製品、卵などが、質の高いタンパク質食品に該当します。なかでも「乳タンパク質」は、質の良いタンパク質の代表と言えます。筋肉の合成を高め、かつ筋肉の分解を抑制する必須アミノ酸を豊富に含んでいることも、乳タンパク質の特徴の一つです。

 その必須アミノ酸とは、ロイシン、イソロイシン、バリンという三つの分岐鎖アミノ酸(BCAA」)です。1杯の牛乳を飲むことで、卵1個や豆乳1杯よりも多くのBCAAを摂取できます(図)。

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ポイント❹ 摂取量は「目標量」を目安に

 「日本人の食事摂取基準」 (2020年版)では、身体活動レベル別にみたタンパク質の目標量が示されています。

 なお、「日本人の食事摂取基準」では目標量のほかに「推定平均必要量」や「推奨量」という数値が示されていますが、目標量とはタンパク質の欠乏を回避する推奨量ではなく、生活習慣病の発症予防や重症化予防のために目標とすべき摂取量です(図)。

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 また、腎臓病の患者さんでは、タンパク質の過剰摂取が腎機能低下を速める可能性があるため、適切な摂取量は医師に相談してください。ただし近年の高齢化で増加している、主として加齢に伴う腎機能低下の場合は、タンパク質摂取制限よりもむしろ、しっかりタンパク質をとったほうが予後の良いことが近年指摘されています。

肥満とやせ過ぎは万病のもと

「肥満は万病のもと」とよく言われますが、やせ過ぎもさまざまな健康障害を引き起こします。とくに若年女性のやせ過ぎは、妊孕性の低下や、時に生涯にわたる問題になったり、次世代に悪影響が引き継がれることがあります。

 高齢者では、自然と食が細くなり、食事から摂るエネルギー量全体が減ってしまいます。何もしなければ筋肉量が減り、低栄養に陥りがちです。低栄養になるとフレイルリスクも上がり、骨折などによる入退院を繰り返すと、さらに筋肉量が減り、フレイルサイクルという負の連鎖を繰り返すことになります。

 活力のあるイキイキとした健康な生涯を送る。そのために、若い時から筋肉量を維持するような食生活と運動習慣を身に付けて、あなたに適した適度な筋肉のある理想的な体系を維持していきましょう

朝食を食べてストレスに強い身体を作る
~蒲池桂子先生に聞く~

 女子栄養大学栄養クリニックの「ヘルシーダイエットコース」は、生活習慣病の予防と改善について学び、正しい栄養と「時間栄養学」に基づいた食生活を身につけさせることを目的としている。本コースを指導する蒲池 桂子先生(日本生活習慣病予防協会 理事)にお話を伺いました。

1日のリズムは朝食から

 人間の体は、地球の自転とともに活動期と休息期を繰り返すリズムで成り立っているため、このリズムが規則正しく運用されていると体の代謝に無理が生じにくく、慢性疾患などになりにくいことがわかっています。

 時間栄養学として考えると、朝目が覚めて朝日を見ることで、脳の中にある、視交叉上核(しこうざじょうかく)が目からの光を受けて、体にある体内時計をリセットします。さらにその情報を体の隅々まで生き渡せるためには、食事をとることが重要と考えられています。そこで、目が覚めてからなるべく早い時間に1食目を食べましょう。

 また、タンパク質は、体を維持するための筋肉やまたさまざまな体の代謝を促すホルモンなどを作る材料として使われるため、効率よくタンパク質をとるのであれば、朝食に補うことが得策ということがわかってきています。運動選手の筋肉増強や肥満解消のためにも朝食にタンパク質の多い食品をとることはちょっとしたコツとなります。

朝食にお勧めたんぱく質

 朝食のたんぱく質といえば、調理が簡単で手軽に用意できるものが、忙しい朝にはお勧めです。

● ヨーグルト(プレーン100g、タンパク質3.2g)やカッテージチーズ、牛乳など
 乳タンパクの含まれる製品
 ヨーグルトや牛乳には、100gで3.2g程度のたんぱく質が含まれます。

● サバやイワシの水煮缶(サバ、イワシ、それぞれタンパク質30g、6.8g)
 レモンとオリーブオイルを振りかけると臭みも気にならず、さらに、マヨネーズなどをトッピングすると、サンドイッチの具にもなります。

● しらす(大さじ2、12g:タンパク質3g)、ちりめんじゃこ(大さじ2.8g:タンパク質3.2g)、鮭のフレーク(15g、タンパク質3.6g)、絹ごし豆腐100g(タンパク質5.4g)、納豆1パック40g(タンパク質6.6g)などをごはん(100gあたりタンパク質2.5g)とともに摂ると、タンパク質がそれぞれ3から5gプラスされます。

 女性の朝食の欠食率は全体に男性より高く、とくに20、30代の女性で高いと報告されています。まずは、朝食を食べるところから始めましょう。その上で、できれば、朝食にタンパク質を10~20g摂れるように工夫していくとよいでしょう。もちろん、野菜もできるだけ、忙しい朝には、野菜ジュースだけでも召し上がっていただくと、タンパク質や糖質を効率よく代謝できるビタミンやミネラルの補給、血糖値の上昇を抑える食物繊維もとることができて、ストレスに強い身体を作ることになります。

 若いうちは見栄えが気になり、少しでもスリムになりたがる人が少なくありませんが、朝食抜きや、無理してのダイエットは、後々しわ寄せがきます。20、30代のうちから、健康、食事、運動、この3つを意識して続けることが、いつまでも元気で過ごす秘訣です。

Part 1 若い女性のやせ過ぎ問題は待ったなし!
Part 2 高齢女性のやせ過ぎ問題も待ったなし!
[mhlab]

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